揺らぐアメリカのイスラエル支援――イスラエル観に起きている「3つの変化」

執筆者:前嶋和弘 2023年11月3日
エリア: 北米
国内ユダヤ系の反発はかつてないほど高まっている[MIT(マサチューセッツ工科大学)で開かれたパレスチナ支援の集会で、「自由なパレスチナのためのユダヤ人」の看板を掲げる抗議者=2023年10月19日、アメリカ・マサチューセッツ州ケンブリッジ](C)AFP=時事
ハマスの大規模テロに襲われたイスラエルに対するアメリカ国内の共感は、時間とともに低下傾向を見せている。世論調査では若年層と非白人の消極姿勢が顕著だが、ユダヤ系の人々の間でもネタニヤフ批判が求心力を高めていること、「アメリカファースト」を掲げる保守の動向も見逃せない。イラク戦争以降、イスラエル支援を強く求めてきたキリスト教「福音派」の影響力も併せて視野に入れながらバイデン政権への逆風を読み解く。

 イスラエルとハマスの紛争が激化する中、かつてはイスラエル支持で一枚岩だったアメリカの世論が今回は大きく揺らいでいる。アメリカのイスラエル観そのものに大きな変化の兆しがあるようにもみえる。3つの変化を論じる。

イスラエル支援に慎重な若者と非白人:支持はテロ直後から更に低下

 まず、第1の変化は、イスラエル支援に否定的な声が若者と非白人の層で増えていることだ。

 ハマスの大規模なテロ直後の10月12~13日にCNNが行った調査によると、「ハマスの攻撃に対するイスラエル政府の軍事的対応は妥当(正当化できる)」とした回答は全体で7割(全く妥当50%、ある程度妥当が20%)だった。しかし、年齢別にみると「妥当」としたのは年齢が低ければ低いほど少ないことが分かる。18~34歳が57%、35~49歳が63%、50~64歳が75%、65歳以上が93%だった。また人種別にみると「妥当」としたのは白人78%に対し、有色人種が58%と大きな差が出た。

「まったく正当化できない」についても、全体で8%だったが、18~34歳が14%(65歳以上が2%)、非白人は14%(白人は5%)だった。

「イスラエルの人々への共感」はテロ直後だったこともあり、全体で96%だったものの、パレスチナの人々への共感」は全体で87%もあったことも特筆される1

 この調査はテロ直後だったが、アメリカのイスラエル支援の声は、ますます小さくなる傾向にある。10月16日から19日にかけてのCBSの調査では「アメリカがイスラエルに武器や物資を送るべきかどうか」は全体で48%と、ついに過半数割れとなった(民主党支持者47%、共和党支持者は57%、無党派45%)。若い世代はイスラエル支援に消極的であり、30歳未満が41%、30~44歳が36%、45~64歳が51%、65歳以上64%だった。白人は49%だったのに対し、黒人は48%、ヒスパニックが46%と、数ポイントの差だが、やはり非白人の方がイスラエル支援に否定的であった2

 今後、パレスチナの民間人の犠牲が増えていけば、さらに否定的な意見が増えてくるであろう。

アメリカ国内のユダヤ系の反発:「加害者側になりたくない」

 第2の特徴は、ベンヤミン・ネタニヤフの右派路線に対して、アメリカ国内のユダヤ系の反発が目立っている点だ。

 ユダヤ系が中心となり、キャノン下院議員会館に立ち入ったほか、ユダヤ系が多いニューヨークのグランドセントラル駅などに集合し、停戦を求めるデモを急いでいる。ユダヤ系としては、「同じユダヤ人として加害者側になりたくない」というのが、イスラエルの攻撃を止めるデモに参加する理由になっている。

 アメリカ国内ではAIPAC(American Israel Public Affairs Committee。アメリカ・イスラエル公共問題委員会)のような親イスラエルロビーがネタニヤフ現政権のような右派を熱烈に支持してきた。

 これに対して、AIPACとは対照的な「ユダヤ人左派」とでもいうべき新しいロビー組織「Jストリート」(2008年設立)も注目を集めている。Jストリートは和平を望み、イスラエルとパレスチナの「二国家共存」を訴えており、ネタニヤフ路線に否定的だ。Jストリートの方も基本的にはイスラエルを支持する団体だが、国内ユダヤ系の反発の受け皿となってかつてないほどの求心力を持ちつつある。

イラン攻撃論者を攻撃するカールソン:保守に「アメリカファースト」ゆえの慎重姿勢も

 第3は保守側の変化だ。国内を重視し、海外への関与を見直していく「アメリカファースト(アメリカ第一主義)」の観点からイスラエル支援に慎重な姿勢も見える。

 それを象徴するのが、保守派に大きな影響力を持つ、フォックス・ニュースの元キャスター、タッカー・カールソンの動きだ。

 カールソンはイスラエル支援そのものは否定しないが、イスラエル支援のためにアメリカがイランとの戦争に進んでしまうことを強く牽制している。カールソンはX(旧ツイッター)でたびたび、特に、外交安全保障でタカ派路線を取るリンゼー・グラハム上院議員の一連の発言に否定的なコメントを載せている。グラハムは「ハマスがイスラエル攻撃の際に捕らえたイスラエル人やアメリカ人の人質を殺害した場合、アメリカはイランの石油精製所を攻撃すべきだ」という主張を続けてきた。これに対し、カールソンは「アメリカの国益に沿わない」と真っ向からグラハムを否定している。

 カールソンはドナルド・トランプと極めて近い存在として有名だ。トランプ政権が2020年1月、イランのガセム・ソレイマニ将軍を空爆し殺害したときも慎重な姿勢を主張した。カールソンは当時、「イランは本当に我々が直面している最大の脅威なのか」と指摘し、「イランが報復した場合でも、米国は戦争を回避すべき」と主張した。この意見にトランプも同調していたとされる。

過去20年からの揺り戻し:イスラエル強硬姿勢を支持する米国内の福音派

 ではなぜ上述の3つの変化が生まれているのか。それはおそらく過去20年間のイスラエルの強硬姿勢と無関係ではないだろう。そして、その強硬姿勢はアメリカ国内の福音派が強く支持した結果でもある。……

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
前嶋和弘(まえしまかずひろ) 上智大学教授 静岡県生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。専門は現代アメリカ政治外交。アメリカ学会会長。主な著作は『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』(小学館、2022)、『アメリカ政治とメディア』(北樹出版、2011年)、『アメリカ政治』(共著、有斐閣、2023年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著、東信堂、2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著、東洋経済新報社、2019年)、Internet Election Campaigns in the United States, Japan, South Korea, and Taiwan (co-edited, Palgrave, 2017)など。
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