ブラジル「最良の手」インドは「悪手」?:拡がるグローバルサウス論

Foresight World Watcher's 5Tips

執筆者:フォーサイト編集部 2023年5月5日
エリア: アジア 中東 中南米
ブラジルのルラ大統領(右)訪中は、マクロン仏大統領の訪中よりも意味が大きいとの議論もあった[2023年4月14日、北京の人民大会堂で行われた歓迎式典](C)AFP=時事/Brazilian Presidency

 

 今週もお疲れ様でした。岸田文雄首相がアフリカ4カ国歴訪を終えました。G7とグローバルサウスの橋渡し外交は高く評価されるべきですが、「価値観の同盟」ではないグローバルサウスへのアプローチは一筋縄では行きません。ブラジル、インド、トルコなど、新たな非同盟国家の時代をめぐる議論が海外メディアでも拡がります。

 フォーサイト編集部が週末に熟読したい記事5本、皆様もよろしければご一緒に。

Turkey's Elections Won’t Be Free or Fair【Nate Schenkkan, Aykut Garipoglu/Foreign Policy/5月3日付】

「ここ数十年で最も重要なものとなる選挙が5月14日、トルコで行われる。過去20年間、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と彼の率いる公正発展党(AKP)は、チェック&バランスを排除し、反対意見を取り締まる権威主義の道を歩んできた。メディアを掌握し、政敵を投獄し、市民社会を抑圧してきた。今回同時に実施される大統領選と国会議員選により、これまでの路線が続くのか途切れるのかが決まる」
「エルドアンが独裁政治に舵を切ったとはいえ、トルコの政界は依然として競争的で多元的だ。投票日まで残り2週間を切り、経済危機と2月の大地震に揺れるトルコでは、いくつかの世論調査で野党がリードしている。トルコの選挙は自由で公正なものではないが、それでもエルドアンの政治的キャリアに終止符が打たれる可能性はある」

 以上は、5月3日付で米「フォーリン・ポリシー(FP)」誌に掲載された「自由にも公正にもならないトルコの選挙」の冒頭で、この論考は米NGOフリーダム・ハウスのシニアディレクター、ネイト・シェンカンとプログラム・オフィサー、アイクト・ガリポグルによるもの。

 サブタイトルは「それでも野党勝利の可能性はある」とされており、題名とあわせて読めば、シェンカンとガリポグルの読み筋は自ずと見えてくるだろう。トルコの大統領選・総選挙についてはすでに日本でも「Foresight」を含め多くの情報が出ており、今回の論稿もその線に沿ったものだが、現政権の露骨かつ周到な選挙対策や権威主義的内政についてのディデールが豊富で、投票日の迫ってきた今、一読の価値がある。

 国内で選挙を監督する立場にある裁判所の判事の多くを交代させていたり、マスメディアを「強固な管理下」に置いて野党のキャンペーンについての報道を抑えたりといった“手口”は、最近の先進民主主義国においても決して珍しいものではなくなりつつある。その点もまた、「自由にも公正にもならないトルコの選挙」を読むべき理由のひとつだろう。

Can Thailand's Opposition Prevail?【Andrew Nachemson/Foreign Policy/5月1日付】

 もうひとつ、トルコと同じ5月14日に大きな国政選挙が実施される国がタイだ。FP誌にジャーナリストのアンドリュー・ナッケムソンが寄せた「タイの野党は優位に立てるか?」(5月1日付)は、欧米メディアではトルコの選挙ほどの注目は集めていないタイの下院総選挙の重要さと政治の複雑さを教えてくれるリポートだ。

 タイでは2006年に当時のタクシン・チナワット首相が退陣(後に亡命)し、軍によるクーデターが発生して以降、選挙で勝利するタクシン派とそれを覆す軍の両者による対立が続いている。前回の総選挙は、2014年のクーデターを経て17年に新憲法が施行されたことを受け、19年に8年ぶりに行われた。タクシン派が第一党となって連立政権を立ち上げたものの、この選挙で議席を伸ばした政党が憲法裁判所の判決で解散させられたり、多党連立ゆえの内紛が続いたりと、タイの内政は今なお混迷の中にある。

「2014年のクーデターの指導者たちは現在もタイを支配しており、タクシンの36歳の娘、ぺートンタン・チナワットは、5月14日の国政選挙で自らのタイ貢献党を勝利に導くことを望んでいる。ペートンタンが、厳しい選挙戦で勝利を収めることができるかどうか、また、従来の体制がその結果を受け入れるかどうかは、依然として未知数だ。タイの次期首相は、民主的に選出される500議席の下院、およびクーデター後は議員の選出が選挙ではなく軍によって行われるようになった250議席の上院[元老院]によって再び選ばれることになる」

 妊娠中だったペートンタン・チナワットは5月1日に出産し、これが国内外の大きなニュースとなっており、総選挙でタイ貢献党への追い風になるとの見方も報じられているが、ことはそう簡単ではない。

「5月14日、タイ貢献党は[一党で政権を担うのに]十分な地滑りを起こすか、あるいは、十分な数を持つ連立政権を組み、上院による挑戦を乗り越えてペートンタンを首相にすることを望んでいる。しかし、タイ貢献党が圧勝すれば、軍事指導者や君主主義者で構成されるタイの保守的な体制は脅かされ、またクーデターが起きる危険性が高まることになる」

 タイ貢献党は十分には議席を増やせず連立政権を組むことを余儀なくされるが、その連立に軍や王政に近い政党も参画することで、とりあえず次の総選挙までの安定を確保する――とのシナリオも、筆者のナッケムソンは提示する。だが、改革の加速を望む有権者の受け皿となっている前進党も、最近の世論調査で党首のピタ・リムジャルンラットが新首相適任者としてトップに立つなど勢力を伸ばしており、タイ貢献党が生半可な妥協に走った場合、この前進党が新たな政変の台風の目となる可能性もあるという。

Brazil Is Ukraine's Best Bet for Peace【Jorge Heine, Thiago Rodrigues/Foreign Policy/4月24日付】

Why Lula's Visit to Beijing Matters More Than Macron's【Howard W. French/Foreign Policy/4月24日付】

 タイの選挙よりトルコの選挙の方が日本でも欧米でも大きく報じられる背景のひとつに、ロシアによるウクライナ侵攻がある。戦場と距離が近く、兵器の供給にも関わっていて、和平に向けた仲介役にも擬せられるのがトルコでありエルドアン大統領であるからだ。

 この戦争の調停者として、新たな候補が浮上してきている。……

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カテゴリ: 政治
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