「エルドアンVS.クルチダールオール」トルコ・ダブル選挙の構図と論点

執筆者:今井宏平 2023年4月26日
タグ: トルコ
エリア: 中東
建国100周年の大統領選勝利を悲願とするエルドアン氏(C)AFP=時事
5月14日にトルコの大統領選と議会選が行われる。エルドアン大統領率いる与党連合に、「トルコのガンジー」の異名を持つクルチダールオール氏率いる野党連合が挑む。世論調査は混戦模様だ。

 

建国100周年の大統領選勝利を目指すエルドアン

 2017年の憲法改正により議院内閣制から大統領制へと移行したトルコにおいて、大統領制下で2度目の選挙が2023年5月14日に実施される。大統領選と同時に議会選も行われるダブル選となるが、この選挙の最大の争点は、現職大統領のレジェップ・タイイップ・エルドアン氏が勝利するのか、という点である。

 2002年11月総選挙以来、与党の座を守る公正発展党の中心として、大統領制への移行を進め、選挙に強いというイメージがあるエルドアン大統領だが、エルドアン氏が大統領選に初めて出馬した2014年の大統領選挙でも、次の2018年の大統領選挙でも圧勝したわけではなかった。2014年の大統領選挙でエルドアンの対抗馬として最大野党の共和人民党(CHP)から出馬したのはイスラーム諸国の国際機構であるイスラーム協力機構元議長であるエクメレディン・イフサノール氏であった。エルドアン氏はイフサノール氏と競り合い、51.79%の得票率で勝利した。前回の2018年の選挙ではエルドアン氏の圧倒的有利が囁かれていたが、蓋を開けると共和人民党の候補、ムアッレム・インジェの追い上げに合い、1回目の投票で勝利したものの、その得票率は52.59%にすぎなかった。このように、過去2回の大統領選挙を概観しても、エルドアン氏は決して大統領選に圧勝したわけではなかった。

 とはいえ、今回の選挙にかけるエルドアン氏の意気込みは半端ではない。2023年10月29日はトルコ共和国建国100周年となる記念日であり、この時に大統領職に就いていることがエルドアン氏の悲願である。

 歴代の首相や大統領経験者の中でエルドアン氏が敬意を表するのが、1950年代の民主党政権下で首相を務めたアドナン・メンデレスと1980年代から90年代前半にかけて首相と大統領を務めたトゥルグット・オザルであるが、いずれも建国の父で初代大統領のムスタファ・ケマル(アタテュルク)が進めた世俗主義をより緩和させ、イスラームに寛容な政策を打ち出した人物だ。2003年からの20年間で11年間首相、9年間大統領を務めるエルドアン氏が常に意識しているのが、アタテュルクである。首相や大統領を務めた年数だけを見ると、国家運営が巧みだった2代目大統領のイスメト・イノニュが最長だが、国家の新たな方針を打ち出したという点でアタテュルクの功績には遠く及ばない。

 アタテュルクを意識するエルドアン氏が建国100周年という節目の年の選挙に勝利すれば、支持層である保守層(敬虔なムスリムであり、トルコ人としてのナショナリズムを重視する人々)の期待に沿った改革を打ち出す可能性はある。

「エルドアンの人民同盟」VS.「クルチダールオールの国民同盟」という構図

 エルドアン大統領率いる公正発展党は、トルコ・ナショナリズムを重視する民族主義者行動党(MHP)と2016年末から協力関係を築いており、2017年の大統領制の是非を問う国民投票、2018年大統領選挙・総選挙、2019年地方選挙と共闘してきた。今回のダブル選挙も人民同盟(Cumhur İttifakı)の主力として両党は協力している¹。現状、人民同盟は577ある大国民議席のうち、公正発展党が285議席、民族主義者行動党が48議席、大同盟党が1議席を占めている²

 このエルドアン氏率いる人民同盟に対抗する野党はどのような状況か。最大野党である共和人民党を中心に、反エルドアン、反大統領制を掲げる6党が連合して国民同盟(Millet İttifakı)を形成している³。これらの政党は、イデオロギー的にはばらばらであるが、反エルドアン氏、反大統領制という点で結びついている。この6党連合の大統領候補に選ばれたのがケマル・クルチダールオール氏……

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
今井宏平(いまいこうへい) ジェトロ・アジア経済研究所研究員。中東工科大学Ph.D. (International Relations)、中央大学博士(政治学)。専門は現代トルコ外交・国際関係論。2004年に中央大学法学部卒業後、同大大学院を経てトルコのビルケント大学に留学。中東工科大学国際関係学部博士課程修了後、中央大学大学院法学研究科政治学専攻博士前期課程修了。2016年より現職。著書に『中東秩序をめぐる現代トルコ外交――平和と安定の模索――』(ミネルヴァ書房、2015年)、『トルコ現代史――オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで――』(中央公論新社、2017年)、『国際政治理論の射程と限界』(中央大学出版部、2017年)がある。
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