エルドアンかクルチダールオールか――トルコ大統領選・決選投票の行方――

執筆者:今井宏平 2023年5月26日
タグ: トルコ
エリア: 中東
大統領選で三位につけたオアン氏が決選投票ではエルドアン氏を支持すると表明した(C)AFP=時事
 
5月14日に行われたトルコ大統領選の勝敗は28日の決選投票に持ち越された。一騎打ちを制するのは、現職のエルドアン大統領か野党連合候補のクルチダールオール氏か。焦点は「3位候補の票の行方」「棄権票・無効票の取り込み」「対テロ・対シリア難民政策」「トルコリラの下落」の4つだ。

5月14日の大統領選挙の結果

 現職のレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が再選し、これまでの政策が継続するのか、それとも最大野党共和人民党の大統領候補のケマル・クルチダールオール氏が勝利し、エルドアン政権が終焉するのか――。国内外から高い注目を集めたトルコの2023年5月14日の大統領選は、エルドアン氏が得票率49.52%、クルチダールオール氏が得票率44.88%、右派の独立系候補シナン・オアン氏が得票率5.17%、前回の2018年大統領選挙で大統領候補として善戦した故郷党(Memleket Partisi)のムアレム・インジェ氏が得票率0.43%という結果に終わった。どの候補も過半数に届かなかったため、上位2名、つまりエルドアン氏とクルチダールオール氏の間で2週間後の5月28日に決選投票が行われることになった¹

 また、同時に行われた議会選挙では、エルドアン氏率いる公正発展党が35.58%と最も多くの得票率を得た。次いで共和人民党が25.33%、公正発展党とともに与党連合・人民同盟を組む民族主義者行動党が10.08%、共和人民党と野党連合・国民同盟を組む善良党が9.69%、国民同盟と選挙協力を行った労働と自由同盟の主要政党である親クルド政党の緑の左派党が8.82%という結果となった。同盟別に見ると、人民同盟が49.47%、国民同盟が35.08%、労働と自由同盟が10.55%であり、公正発展党が主導する人民同盟が過半数近くを獲得し、強さを示した。

 2015年の議会選挙までは10%未満の得票率しか得られない政党は議席を獲得できなかったが、2018年の議会選挙から政党間の同盟で10%以上獲得すれば議席を確保できるようになり、さらに今回の選挙直前の4月に政党間の同盟で7%以上獲得すれば議席が確保できるようになったため、人民同盟、国民同盟、労働と自由同盟に参加した各政党は議席を獲得することとなった²

エルドアンの5つの戦略

 それではエルドアン陣営とクルチダールオール陣営の大統領選の戦略はどのようなものだったのだろうか。

 エルドアン陣営は「継続」をキーワードに、エルドアン政権のこれまでの実績および「強い大統領制」での5年間の実績を強調した。そのうえで選挙戦では①強いリーダーシップを前面に押し出す、②我々と敵を区別し、敵(野党連合)を徹底的に批判する、③与党としての強みを最大限活用する、④欧米を牽制する、⑤シリア難民の帰還を視野に入れる、⑥外交での功績を強調する、という戦略を採った。トルコ国民はムスタファ・ケマル・アタテュルクに代表されるように強いリーダーを……

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
今井宏平(いまいこうへい) ジェトロ・アジア経済研究所研究員。中東工科大学Ph.D. (International Relations)、中央大学博士(政治学)。専門は現代トルコ外交・国際関係論。2004年に中央大学法学部卒業後、同大大学院を経てトルコのビルケント大学に留学。中東工科大学国際関係学部博士課程修了後、中央大学大学院法学研究科政治学専攻博士前期課程修了。2016年より現職。著書に『中東秩序をめぐる現代トルコ外交――平和と安定の模索――』(ミネルヴァ書房、2015年)、『トルコ現代史――オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで――』(中央公論新社、2017年)、『国際政治理論の射程と限界』(中央大学出版部、2017年)がある。
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