激変する世界の「石油フロー」、存在感を増すインドのエネルギー戦略にどう向き合うか

執筆者:小山 堅 2023年9月11日
エリア: アジア その他
G20首脳会談のため訪印したジョー・バイデン米大統領(左)とナレンドラ・モディ印首相 9日、ニューデリー (C)AFP=時事
インドの一次エネルギー消費量は中国、米国に続き世界第3位、今後の消費拡大も確実視される。西側によるロシア産石油などへの禁輸で生まれた「市場の分割・二重構造化」の中、インドと中国がロシア産石油の輸入に向かい、日本の中東依存の劇的増加という世界の石油フローの変化にも繋がった。G20議長国を務めグローバルサウスの中心的存在として独自の戦略を描くインドに、世界と日本はどう向き合うか。

 

 G20の議長国であるインドの国際エネルギー市場における存在感が高まっている。米中対立や西側と中露の対立が深まり、グローバルサウスの重要性がクローズアップされる中、G20の議論の行方そのものに世界の関心が集まり、議長国としてのインドの手腕やリーダーシップが注目される。

 エネルギー問題においても、巨大市場となったインドの動きは注目の的である。2022年、インドは一次エネルギー消費量において中国、米国に次ぐ世界3位に位置し、石油消費では米国、中国に次ぐ3位、石炭では中国に次ぐ2位の巨大消費国である。

 絶対値としての消費量では、一次エネルギー消費で中国の5分の1強であり、依然としてその差は大きい。しかし、中国のエネルギー消費が鈍化の兆しを見せ、長期的には人口減少経済減速によって低下していくことが予想される中、インドのエネルギー消費量は今後も堅調な増加が続く、と見る向きが世界の大勢を占めている。弊所の「IEEJアウトルック2023」のレファレンスシナリオでは、2020年から2050年までのインドのエネルギー消費増分だけで、世界全体の増分の35%を占める見通しとなっている。

一次エネルギーの5割が純輸入

 1990年代以降の高成長で、中国がこれまで世界のエネルギー消費増を牽引し、世界のエネルギー市場における消費の「重心」は中国にシフトしてきたが、今後はインドがそれにとって代わり、エネルギー消費増の牽引役になる、との見方が強まっている。もちろん、インドが経済成長を維持・加速するうえでは、様々な社会的課題を克服していく必要があるが、その成長ポテンシャルとエネルギー拡大は誰もが注目するところである。

 さらに、インドが国際エネルギー情勢において重要性を高めている要因として、消費の増加に伴い、エネルギー輸入が急増している、という点がある。2022年時点で、インドは一次エネルギー全体で約5割の純輸入となっており、中国の純輸入比率が2割以下であるのに対し、輸入依存体質であることが際立つ。特に石油の純輸入は約9割に達し、天然ガスも5割強、最大のエネルギー源である石炭も約3割の純輸入が必要となっている。今後、インドのエネルギー消費拡大が続けば、輸入拡大も加速することは間違いなく、それだけ国際エネルギー市場に大きな影響を与える存在となる。これまでは中国の輸入動向が世界を左右してきたように、今後はインドの輸入動向が国際エネルギー需給を左右する要因になっていく可能性が高い。

 しかし、これをインドの側から見ると、エネルギー輸入依存体質の巨大消費国として、エネルギー安全保障の確保と安定供給実現が極めて重大な問題である、ということになる。巨大輸入国として、インドは国際エネルギー情勢の荒波に大きく左右されてしまう、一種の脆弱性を抱えている。そしてこの脆弱性は、今後のエネルギー消費および輸入の拡大によってますます深刻な問題になっていくものと思われる。

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執筆者プロフィール
小山 堅(こやまけん) 日本エネルギー経済研究所専務理事・首席研究員。早稲田大学大学院経済学修士修了後、1986年日本エネルギー経済研究所入所、英ダンディ大学にて博士号取得。研究分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。政府のエネルギー関連審議会委員などを歴任。2013年から東京大公共政策大学院客員教授。2017年から東京工業大学科学技術創成研究院特任教授。主な著書に『中東とISの地政学 イスラーム、アメリカ、ロシアから読む21世紀』(共著、朝日新聞出版)、『国際エネルギー情勢と日本』(共著、エネルギーフォーラム新書)など。
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