政治化する気候変動問題:産油国は「抵抗勢力」か、「プラグマティスト」か

執筆者:村上拓哉 2023年12月19日
エリア: 中東
UAE、サウジは途上国の気候変動に桁違いの資金支援も打ち出した[COP28の議長を務めたUAEのジャービル産業・先端技術大臣=2023年12月13日、UAE・ドバイ](C)EPA=時事
石油企業CEOが議長を務めることが当初から批判されたCOP28は、会期延長が必要となるほどの政治的紛糾に見舞われた。しかし、最終合意に盛り込まれた「化石燃料からの脱却」は、議長国UAEを始めとする産油国の「プラグマティズム(現実主義)」なしに実現しなかったと言えるだろう。OPECプラスへ新たにブラジルがオブザーバー参加するなど産油国間の連携は進む。気候変動外交は新たな段階を迎えつつある。

 11月30日からアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれていた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が12月13日に閉幕した。およそ6.5万人が参加した2週間にわたる一大イベントは、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにするネットゼロ目標に向け、石油や石炭、天然ガス等の化石燃料からの脱却を進めることで合意した。2021年のCOP26では石炭の段階的削減には言及されていたものの、石油・天然ガスを含む化石燃料からの脱却が合意文書に反映されたのは初のことであり、歴史的な一歩だと評された。

産油国と欧米諸国の対立構図が顕在化

 一方で、COP28はこれまで以上に政治的な紛糾が目立つ会合となった。

 まず、産油国であるUAEで会合が開催されること自体に批判が寄せられた。さらにUAEの石油産業を代表するアブダビ国営石油会社(ADNOC)のCEOであるスルターン・ジャービル産業・先端技術大臣が今年1月にCOP28の議長に任命されると、環境団体を中心に大きな反発が起きた。政治レベルでは米議会と欧州議会の議員133人が、米大統領、欧州委員会委員長、国連事務総長、国連気候変動枠組み条約事務局長宛に連名で書簡を送付し、ジャービルの議長任命を撤回するようUAEに働きかけることを求めた。

 化石燃料産業の利害関係者は気候変動問題の会合の主催者としてふさわしくないという主張は、至極まっとうな指摘だろう。気候変動対策として必要とされる措置が一石油企業の利益と相反する可能性は無数に考えられる。さらにCOP28が始まる直前、BBCはADNOCが会期中に中国やコロンビア、ドイツ、エジプト等15カ国と化石燃料の取引について協議を予定していると報じ、主催者の立場を利用しているとして物議を醸した。ジャービルは疑惑を否定したが、アムネスティ・インターナショナル等の団体はCOP28の議長を務めるならばADNOCのCEOを辞職するようジャービルに要請した

 実際のところ、UAEが主催した今次会合では、サウジアラビアやイラク等、産油国の主張がかなりの程度反映された。最終合意ではエネルギーシステムにおける「化石燃料からの脱却(transitioning away from fossil fuels)」に言及されたが、当初の草案では化石燃料の「段階的廃止(phase out)」が謳われていた。しかし、石油輸出国機構(OPEC)のハイサム・ガイス事務局長は、段階的廃止案は化石燃料に対する不当な圧力であるとし、加盟国やパートナー国に草案に反対するよう働きかけたことがロイター通信によって明らかにされた。OPECがCOP28にこのようなかたちで介入してきたのは初めてのことであり、欧州連合(EU)のウォプケ・フックストラ気候変動対策担当委員はOPECの働きかけは気候変動に関する世界の立場と調和していないと批判した。

 OPECを主導するサウジアラビアや、OPECプラスの枠組みを通じて同国と協力関係にあるロシアは欧米諸国の要求に強く抵抗した。比較的中立の立場にあった中国の解振華・気候変動問題担当特使は、……

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執筆者プロフィール
村上拓哉(むらかみたくや) 中東戦略研究所シニアフェロー。2016年桜美林大学大学院国際学研究科博士後期課程満期退学。在オマーン大使館専門調査員、中東調査会研究員、三菱商事シニアリサーチアナリストなどを経て、2022年より現職。専門は湾岸地域の安全保障・国際関係論。
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