オペレーションF[フォース] (51)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第51回

執筆者:真山仁 2024年2月10日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】都倉響子は、CIAの上席分析官・レビンの「尋問」を受ける。彼が示す写真には、留学時代の親友・劉唯の顔が。彼女は今では諜報機関で対日工作のエキスパートだという。

 

Episode5 四面楚歌

 

18(承前)

 数枚の英文の文書が、副官から差し出された。

「そこに劉唯の略歴があります」

 1ページ目にある略歴には、彼女が中国に帰国後、国家安全部に籍を置き、着実にキャリアを積み上げていった軌跡が記されていた。

「失礼ですが、先生は、劉が帰国後、連絡が取れなくなったと仰っていますが、それを裏付ける証拠がありますか」

「そんな証拠なんて……。もしかして、私を中国のモグラだとおっしゃりたいんですか」

 レビンは、再び沈黙して都倉を見つめていたが、やがて肩をすくめた。

「失礼しました。そんなつもりはありません。ですが、かつてのご学友だったとはいえ、華首相が、先生をあんなデリケートな外交案件に引きずり込むには、それなりの理由があると考えなかったのですか」

 あるのかも知れないが、私には分からない。どうしても、その答えが欲しければ、華を拉致でもして尋問すればいい。

「先程申し上げた通り、劉は、対日工作のエキスパートです。日本の政財界の重要な地位にある人物、さらには著名なジャーナリストを、少なくとも10人以上は現地工作員[アセット]としてコントロールしていると、我々は考えています」

「その10人は、特定できているんですか」

 レビンは答えなかったが、顔が「YES」と言っている。

「では、私をその一人だとでもおっしゃりたいんですか」

「我々が彼女の全てのアセットを把握しているわけではありません。

 むしろ、私たちが知っている10人は、さして重要なアセットではないとも考えられます」

 私は「重要なアセット」だと言いたい訳か。

「ちなみにCIAの私に対する評価を教えてもらえますか」

「お恥ずかしい話ですが、まったくのノーマークでした」

「なのに、私を売国奴だと非難している。そもそも、私は日本人だし、状況証拠すらない。非礼極まりないと思われませんか」

「しかし、何の見返りもなく中国の首相が、拿捕した台湾軍の潜水艦と乗員を解放するなんて、どう考えてもあり得ないんです。その理由を明確にして下さったら、我々は引き下がります」

「ですから、私にお尋ねになっても、お答えできません。でも、こんな不毛な議論が起きている状況を考えると、これこそが、彼らの目的ではないでしょうか」

「どういう意味です?」

「本来、中国がやりそうもない行為を、日本の政治家から説得されて実行した。そういう筋書きを作れば、日米台の首脳は、疑心暗鬼になるだろう。そして、日米安全保障条約という岩盤にヒビを入れられる」

 この窮地を脱したいという思いに駆られて、口にしたのだが、案外、“当たり”かも知れない。

「つまり、我々は中国の術中に嵌まっていると?」

 都倉は黙って頷いた。

「では、あくまでも中日安全保障条約の提案を受けてはいないと、おっしゃるわけですか」

「受けていないのですから、そうとしか申せません」

 副官がタブレットを、都倉に渡した。

 在日米軍司令官の名で発せられた通達書のようだ。

 3日以内に、横須賀基地の第七艦隊及び、沖縄嘉手納基地所属の第18航空団は、グアムへ移動せよ――とある。……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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