サルトルの有名な戯曲『出口なし(Huis clos)』。地獄に落とされた男1人と女2人は、狭い部屋に閉じ込められる。お互いがお互いを見つめ合う心理劇のなかで、主人公の男性は呻く。「僕を食い尽くす他人の視線。……地獄は他人だ(l'enfer, c'est les Autres)」。 ユーロという部屋に閉じ込められたギリシャの人々は、同じ呻き声を上げているに違いない。緊縮という拘束衣を押し付けられ、他のユーロ参加国、なかでもドイツから厳しい視線を浴びる。経済も政治も「出口なし」。やり場のない鬱積した国民感情が、5月6日の総選挙結果となって爆発した。 財政緊縮を受け入れた2大政党が大幅に議席を減らし過半数を失い、新政権の樹立に失敗した結果、6月17日には再選挙となる。第2党に躍進した緊縮反対の急進左翼連合(SYRIZA)が台風の目であり、ギリシャのユーロ離脱が現実のリスクとして表面化しだしている。 ギリシャのユーロ離脱は、ポルトガル、スペイン、イタリアなど南欧の重債務国へのリスク波及をもたらしかねない。そうなると、欧州単一通貨ユーロの崩壊にもつながる恐れがある。欧州を舞台としたドミノ倒しの恐怖。先週末(5月18-19日)、米キャンプデービッドで開かれた8カ国首脳会議(サミット)は、共同声明でわざわざ「ギリシャのユーロ残留」希望を謳った。

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