土壇場の極秘訪朝で北朝鮮側にミサイル発射中止求めたオバマ政権!?

執筆者:春名幹男 2012年5月24日
エリア: アジア

 韓国メディアが、北朝鮮のミサイル発射約1週間前の4月7日、米政府高官がひそかに訪朝して北朝鮮側に発射の中止を働き掛けていた、との情報を伝えている。
 最初に伝えたのは、韓国放送公社(KBS)労組がネット上で運営するユニークなニュース番組「リセットKBS(ResetKBS!)ニュース」。18日、訪朝した米高官が誰かは不明だが、米側がミサイル発射の中止を求めて、最終的な説得に努めたというのだ。
 これに対する米政府当局の反応はノーコメントだった。
 18日の国務省定例会見で、ヌーランド報道官は「その報道に関するコメントはありません」。韓国を訪問したグリン・デービース北朝鮮担当特別代表は21日、「それについて言うことは何もない」「あなた方が質問する必要があることは分かるが、お役に立てない」。
 すると、今度はソウル新聞が24日、ResetKBS!より詳しい内容を伝えた。訪朝したのはジョセフ・デトラニ元朝鮮半島担当大使、国家安全保障会議(NSC)のシドニー・サイラー6カ国協議担当部長ら。国防総省の特別機で平壌を訪れたというのだ。
 このニュース、聯合ニュースもフォローして、ちょっとした話題になった。
 だが、第1の問題はデトラニ氏らの秘密訪朝の真偽だ。状況から見て、ありうる話ではある。2月29日の米朝合意発表の舌の根も乾かぬうちに、北朝鮮による「人工衛星打ち上げ」の発表で、裏切られた形のオバマ政権が慌てたことは想像に難くない。だが、訪朝の事実の確認はオバマ政権内では難しいだろう。
 第2は、韓国メディアがいかにしてこの情報を入手したか、だ。国防総省の特別機が日本領空を通過、日本側から韓国の航空管制官に北朝鮮に向かう航空機だとの連絡が入り、その情報が漏れた可能性が、米国内では取りざたされている。
 第3は、米中央情報局(CIA)のベテラン元工作員であるデトラニ氏ならやりかねない、とみる向きが少なくない。彼は2009年、クリントン元大統領の訪朝をお膳立てし、北朝鮮側に拘束されていた2人のアジア系米国人女性ジャーナリストを解放させた経験もある。
 彼はCIAでは元々経済アナリストで、80年代にCIA北京支局長を経て、ケーシーCIA長官の補佐官、工作部門の東アジア部長、6カ国協議担当大使、国家情報長官(DNI)事務局の北朝鮮担当部長、そして国家大量破壊兵器拡散防止センター(NCPC)長を今年1月まで務めていた。日本の情報関係者にも知己が少なくない。大統領選挙を控えるオバマ政権としては、自ら動かずに6カ国協議再開などの成果を出したいところだが、デトラニ氏の出番がまだあるかもしれない。
(春名幹男)

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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