成立に向かう「大阪都法案」

執筆者:原英史 2012年7月31日
カテゴリ: 政治
エリア: アジア

 

大阪都構想実現のための法案、「大都市地域における特別区の設置に関する法律案」が7月30日、民主、自民、公明、みんな、国民新、生活第一・きづな、改革無所属の会の7会派の共同提案で、国会提出。会期中の成立の目途が立った。
 
11月のダブル選直後、この部屋で、「『大阪都』構想が国会につきつける課題」というエントリーを書いたが、正直なところ、たった数カ月でここまで進展するとは思っていなかった。何と言っても、ダブル選では、主要政党は大阪都構想には反対の立場だったのだ。
 
 その後の経過を振り返ると、当初より都構想に前向きだったみんな・新党改革が、まず法案提出(3月)。さらに、自民・公明、民主・国民新が順次(それぞれ4月、6月)、法案を提出した。
3つの案は、いずれも、
・大阪だけを対象とするのでなく、一般ルールとして、東京都と同様の特別区(公選区長、議会あり)を設ける制度を定め、
・また、東京都と全く同じ制度設計を強いるのでなく、地方のイニシャティブで、独自の制度を設ける余地を認める点では共通。
 
 一方、以下の点では差異があった。
1)適用される都市圏の範囲(みんな・新党改革は人口70万人以上、自民・公明は人口100万人以上、民主・国民新は人口200万人以上)
2)住民投票の有無(みんな・新党改革は無、他の2案は有)
3)国の関与の程度(みんな・新党改革は「総務省への協議等は不要」、自民・公明は「総務省に説明・情報提供」、民主・国民新は「総務省に協議・同意」)
4)「大阪都」の名称(みんな・新党改革は「大阪都」に、他の2案は名称変更は定めず)
 
 その後、与野党間での協議の結果、一本化の合意が成立。改めて7会派案として提出された。差異のあった諸点については、
1)適用対象は人口200万人以上、
2)住民投票は有、
3)国の関与は、事務配分等の一定事項については総務省に協議、
4)「大阪都」への名称変更は認めない、
といった決着になった。
 
一連のプロセスは、既成政党が、大阪維新の会の国政進出、とりわけ「都構想が国会で妨げられている」と争点にされることを危惧して、異例のスピードで対応した・・といった政局的文脈で評されることも多い。だが、思惑は別として、大阪における民意を国会が抹殺することを回避し、国会が機能を果たしたことは評価されるべきだろう。
 
 今回、成立に向かっている法案は、従来の地方自治制度のあり方を考えれば、画期的なものだ。
 従来の地方自治制度は、「地方自治」という言葉とは裏腹に、すべて国の主導で定めることが基本だった。広域自治体(道府県)と基礎自治体(市町村)の構造、事務配分、財源配分などは、すべて法律で一律に定められ、地方が独自にいじることは想定されていなかった。
 これに対し、今回の法案では、
・地方のイニシャティブで特別区の制度に移行する手続きを定め、
・事務配分、財源配分などに関し、(東京都とも異なる)独自の制度設計とすべく、地方から国に提案して、必要に応じ国が法改正などを行う仕組みも定めている。
 
 特別区への移行のケースに限られているものの、「地方のイニシャティブで、国の定める地方自治制度を変えられる」というのは、制度思想の大転換といってよいだろう。
 
「大阪都」という名称に関しては、最終局面で橋下大阪市長が問題視していたが、結局認められなかった。「都は東京都だけ」という意見が強いなど、問題がややこしかったためだ。
今回の法案では、「大阪府」という名称はそのままに、実態の制度は、東京都に準じた特別区に変えられる、ということになる。このため、これを「大阪都法案」と呼んでよいのかは微妙だが、「名称を除き、大阪都構想を実現するための法案」という意味合いで、表題では「大阪都法案」とした。こうした点は、さらに今後の課題となろう。
 
(原 英史)
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執筆者プロフィール
原英史(はらえいじ) 1966(昭和41)年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問などを務める。著書に『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』、『国家の怠慢』(新潮新書)など。
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