十年ぶりのミラノには、正直いってがっかりした。聳え立つ大聖堂からスカラ座に抜ける道には、ヴィットリオ・エマヌエーレというサヴォイア家出身の初代イタリア国王の名を冠した、ガラス屋根のショッピングアーケードがある。重厚な色合いの大理石が敷き詰められた舗道は由緒正しくて、オペラの稽古を終えてステッキ片手に上機嫌に歩いてくるヴェルディにでも出くわしそうな趣があったものだ。アーケードの中心には、高そうな銀器やカラーの画集を置く本屋があって、この通りにただならぬ品格と威厳を与えていた。かといってスノッブなところは微塵もない。たとえ買わないとわかっていても、丁寧に商品の説明をしてくれたり、画集を見せながら画家の悲運を教えてくれたり、家族経営のオーナーの応対には、ゆったりと熟成したイタリア文化の懐の深さが感じられた。

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