クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

六十年前の極秘情報 名づけてベンジョ・プレス

執筆者:徳岡孝夫 2005年10月号

 太平洋戦争の始まるまでスタルヒンだったピッチャーが、須田と改姓して西宮球場のマウンドで投げていた。私はそれを見た。当時は試合が五回か六回まで進むと、子供はタダで入れてくれた。須田は、遠目にも日本人とは異なる白皙だった。 英語は敵性語だから使ってはいけない。セーフはヨシ、アウトはヒケだった云々。六十年前の戦争を振り返って、いまの日本人は先祖の了見の狭さを嗤う。だがスタルヒンは投げ、巌本真理はバイオリンを弾いていた。 そのうえ敵性語を排斥したはずの国で、実は英字新聞が二紙、休刊日以外は一日も休まずに終戦まで発行され続けたのだ。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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