行き先のない旅 (46)

フランス高出生率のヒミツ

執筆者:大野ゆり子 2007年3月号
エリア: ヨーロッパ

 パリ症候群という病気があるそうだ。憧れてパリに住み始めたものの、フランスの習慣や文化にうまくなじめず、精神的にバランスを崩し、鬱病に近い状態になってしまうことだそうで、年間百人ぐらいの日本人が、この症状に悩まされているという。 私自身のパリ滞在初日も最悪であった。地下鉄に乗っていると、扉のそばで、隣の人が「Quelle heure est-il?」と話しかけてきた。フランス語が話せなかったくせに、これはNHKフランス語会話で聞いた「何時ですか」の意味だな、などと迂闊にも反応してしまった。馬鹿正直に腕時計を見て、片言の作文を始めている間に、時間を知りたがっていたはずの男が、発車寸前に降りてしまった。そこで初めて気づいたが、かばんが空いていてお財布がない。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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