世界銀行やゴールドマン・サックスの予測によれば、二十年後のインドは、アメリカ、中国、日本と競う経済大国になっているはずだ。しかし一九九一年の経済自由化で鎖国状態から飛躍的に成長したこれまでとは違って、今後の経済発展には、政府と企業の双方に解決すべきさまざまな難題と前提条件がある。
インドの人口が二〇二五年までに世界最大となることは間違いないが、それが今まで通りメリットになるわけではない。大量の就職口を生み出さなければ、ますます格差が広がるのは目に見えているからだ。政府は「包括的経済発展」を掲げてきたが、人口の五六%が従事する農業は平均二―三%程度しか成長していない。また公立学校の教育水準があまりに低いため中退者が多く、農業従事者の多くは工場労働者として採用できるレベルに達していない。一方で、雇用創出効果の大きい製造業の対GDP(国内総生産)貢献度は一八%に過ぎず、ここ数年変わっていない。製造業開発の呼び水となるインフラ整備、金食い虫の公的企業の民営化などが、これからの経済発展の鍵となるだろう。
一方、企業にとっての課題も多い。一昨年のリーマンショックで明らかになったように、富裕層を対象としたビジネスモデルはもう通用しなくなっている。都市部で落ち込んだ需要を支えたのは農村市場だった。特に、バイク、携帯電話、家電などが企業の成長を支え、企業は農村市場に目覚めた。タタの超低価格車「ナノ」が話題を呼び、低価格の浄水器、LED灯などが次々に開発・販売されている。企業にとっての課題は、今まで消費生活の外側にあった大多数の人間を消費者にし、規模の経済性を達成することだ。
政府が社会開発で全体的な底上げをし、企業が技術革新によってその恩恵を大多数の人間にもたらすことが、今後の「開発の車の両輪」ではなかろうか。幸いに、インドでは政治も企業もこれらのニーズを認識しているように見えるから、今後のインドの経済発展は大いに期待できるだろう。
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