中小企業の集積地である東京・大田区を訪れたのは四年前のことである。 大田区はただの中小企業の集積地ではない。どこか高いビルの屋上から「こんなものが欲しい」と設計図を紙飛行機にして飛ばしたら、二、三週間後に立派な試作品になって戻ってくると言われるほど、大田区には実に多種多様な技術を持つ工場群がある。しかも、彼らは「仲間回し」と呼ばれる協力関係でつながっており、一人の企業主が設計図を受け取ると、違った技術を持つ仲間同士が集まり、試作品を作り上げる。 四年前も景気低迷が続いていたが、ユニークな技術を誇る企業は健在だった。しかし、その後、日本経済を襲った不況は並大抵のものではなかった。おまけに量産製品の生産拠点は中国へ移り、日本経済の空洞化が進んだ。その影響をもろに受けたのが中小企業である。中小企業のチャンピオンともいえる大田区は、どうなっただろうか。それを知りたくて今回再度取材することにしたのである。

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