北朝鮮「政軍関係の軋み」で「ミサイル発射」の悪手(上)

執筆者:平井久志 2012年12月4日
エリア: アジア
米ジョンズ・ホプキンス大コリア研究所が11月29日に公表した北朝鮮西部・東倉里の「西海衛星発射場」を写した衛星写真。写真右上にミサイルを運ぶトレーラーが2台並んでいる=26日。[デジタルグローブ社撮影](C)時事
米ジョンズ・ホプキンス大コリア研究所が11月29日に公表した北朝鮮西部・東倉里の「西海衛星発射場」を写した衛星写真。写真右上にミサイルを運ぶトレーラーが2台並んでいる=26日。[デジタルグローブ社撮影](C)時事

 金正日(キム・ジョンイル)総書記が昨年12月17日に死亡し、まもなく1年になる。金正恩(キム・ジョンウン)後継体制はこの1年でどこまで来たのだろう。金正恩氏は4月の第4回党代表者会、最高人民会議第12期第5回会議で党第1書記、国防委員会第1委員長という職責に就き、そして7月には共和国元帥の軍事称号を得て、党、軍、国家のすべてのトップの地位に。名実ともに北朝鮮の最高指導者の地位に就いた。  そして、この1年間で、金正恩後継体制を支える指導部の再編を進めた。党では自身の叔母で、金正日総書記の妹の金慶喜(キム・ギョンヒ)党政治局員が組織担当党書記になり人事権を掌握し、叔父の張成沢(チャン・ソンテク)党政治局員は党内の権限を強化しつつ経済や軍にまで影響力を拡大している。さらに張成沢氏系列の党人である崔龍海(チェ・リョンヘ)氏は党政治局常務委員のポストだけでなく軍総政治局長として軍の統制を担当している。  韓国の統一部当局者は韓国メディアに対して11月20日、金正恩第1書記は今年4月に党、政府、軍のトップに就任した直後から、党、内閣、軍の順番に幹部に対する忠誠度の検証を行なっており、この作業は今も続いていると述べた。金正恩第1書記は党、内閣に続いて軍に対し、自らへの「忠誠チェック」を断行し、北朝鮮軍部も「金正恩時代」の新しい陣容に再編されつつある。  韓国政府当局者は11月29日、金正覚(キム・ジョンガク)人民武力部長(次帥)が更迭され、後任に金格植(キム・ギョクシク)元総参謀長が就任している模様だと明らかにした。北朝鮮メディアが11月29日に「航空節」記念行事を報じた際に、参加者を崔龍海軍総政治局長、張成沢党政治局員、玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)軍総参謀長、金慶喜党政治局員、金格植人民武力部長、朴道春(パク・ドチュン)党政治局員――とするなど、金格植元参謀総長を高位で報道することが続いており、金格植氏が政治局員で国防委員の朴道春氏より上位にあることから、人民武力部長に就任した可能性が高いとみられる。

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
平井久志(ひらいひさし) ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top