「反米」「民衆との絆」「破綻した経済」―チャベス大統領とは何だったのか

 2007年の国民投票を除き、14年間で全ての選挙と国民投票で勝ち続け、クーデターをも乗り越えてきた百戦錬磨の闘士も、ガンとの戦いには勝てなかった。3月5日ベネズエラのウゴ・チャベス大統領が死去した。58歳。「中南米における反米左派のリーダー」「カストロの後継者」であることを自他ともに認めてきた指導者は、師と仰ぐフィデル・カストロより先に逝くことになった。

 チャベス大統領は、2011年6月訪問先のキューバでガン(「野球ボール大」)の摘出手術をし、12年2月ハバナで再び摘出手術(「2センチ大」)を行なった。病状はかん口令が敷かれ、政権の一部とキューバ政府のみが知る国家機密と化しただけに、様々な憶測を呼んできた。昨年10月の大統領選挙で4選を果たした後、「絶対的指導者」がニコラス・マドゥロ外相(当時)を公式の後継者に指名してキューバに再び飛立った12月に、すでにその結末は予告されていたともいえる。2月18日帰国したもののついぞ肉声が聞かれることはなく、最期は時間の問題と見られていた。炎のような民族主義者、革命家は2年に及ぶ闘病の末、死に場所を故国に求める形となった。

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執筆者プロフィール
遅野井茂雄(おそのいしげお) 筑波大学名誉教授。1952年松本市生れ。東京外国語大学卒。筑波大学大学院修士課程修了後、アジア経済研究所入所。ペルー問題研究所客員研究員、在ペルー日本国大使館1等書記官、アジア経済研究所主任調査研究員、南山大学教授を経て、2003年より筑波大学大学院教授、人文社会系長、2018年4月より現職。専門はラテンアメリカ政治・国際関係。主著に『試練のフジモリ大統領―現代ペルー危機をどう捉えるか』(日本放送出版協会、共著)、『現代ペルーとフジモリ政権 (アジアを見る眼)』(アジア経済研究所)、『ラテンアメリカ世界を生きる』(新評論、共著)、『21世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像』(アジア経済研究所、編著)、『現代アンデス諸国の政治変動』(明石書店、共著)など。
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