クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?
クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

1964年のギリシャ

 ギリシャの首都アテネから五輪競技の聖地オリンピアまで、私の車の距離計では331.8キロだった。距離は今も変らないだろう。東京―名古屋にほぼ等しい。
 コリントスの橋を渡ったところで、道路はギリシャ本土からペロポネソス半島に入る。19世紀末に掘削されたコリントス運河は、切り立った両岸に挟まれた一直線の深く美しい水路で、掘ったギリシャ人のヘレニズム魂を感じさせる。
 古代彫刻に囲まれて育ったギリシャ人は、あくまでも明るい陽光を浴びた風土に助けられ、いまだにどこかホメロス的な明晰、雄大を保っている。
 日本人は、なでしこの活躍に気圧され、遠慮して思い出さないが、古代の五輪競技は男だけで行い、女性は見ることもできなかった。ある婦人は、我が子の勝利を見たくて堪らず、薄衣(はくえ)をまとって観客席に入った。息子は勝ち、興奮した母は抱きしめようとして衣が客席を仕切る柵に引っ掛って裂け、性がバレて罰せられたという。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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