リーダーインタビュー・シリーズ
リーダーインタビュー・シリーズ (2)

【トップランナー】東急不動産ホールディングス代表取締役社長 西川弘典

不動産業界は環境対応で大きな差。「環境先進企業」として業界の内外で存在感を発揮する。

執筆者:フォーサイト編集部 2022年5月2日
タグ: マネジメント
 

【経歴】にしかわ・ひろのり 1958年北海道出身。慶應大経済学部卒、82年東急不動産入社。執行役員、副社長執行役員などを経て2020年から現職。

 内外に混沌とした経済情勢が続く中、日本を力強く牽引している経営者たちが経営理念と戦略を語るリーダーインタビュー・シリーズ「トップランナー」。第2回は、東急不動産ホールディングス代表取締役社長の西川弘典氏に「環境先進企業」としての取り組みを聞く。

Q.不動産産業界を取り巻く環境についてお話しください。

 ここ数年、不動産業界も大きな影響を受けた新型コロナウイルスの感染拡大については各国で制限緩和が進み、事業環境にポジティブに働きつつあります。一方、国際情勢は不透明感が増しています。ロシアのウクライナ侵攻に伴い、原油をはじめとした原材料高が進行しており、物価上昇を受けた米国の金融引き締めも進んでいます。

 我々も工事金や金利の上昇などを注視しながら経営していかなければなりません。不動産業界ではコロナ禍により「新しい暮らし方」「新しい働き方」が急速に広がり、取り巻く環境は一気に変わりました。マンション需要は都心部を中心に高止まりの傾向にありますが、同時にテレワークの浸透などで郊外の住宅にも関心が集まりつつあるなど、世の中のニーズが多様化してきています。また、職場、自宅以外の「サードプレイス」としてのサテライトオフィスの需要も高まっています。

Q.その中で東急不動産HDの戦略は。

 当社は昨年5月に、2030年までの長期ビジョン「GROUP VISION 2030」を策定しました。その中で当社は「強固で独自性のある事業ポートフォリオの構築」を目指して、「環境経営」「DX」を全社方針として掲げ、経営を進めています。今年3月には東急ハンズを株式会社カインズに譲渡するなど、グループの体制見直しも行っています。今年5月には長期ビジョンを推進するための2025年までの「中期経営計画」も発表する予定です。

Q.経営目標として「環境経営」を中心に据えるのは珍しいのではないでしょうか。

 当社グループでは環境ビジョンの基本理念を1998年に策定するなど、環境課題に先んじて積極的に取り組んできました。近年、個人や企業などの環境意識が高まっており、環境やESG経営の考え方が浸透するなど、当社が先んじてやってきたことが間違っていなかったのだと自信を深めています。

 そんな中で、中核会社の東急不動産では2016年に再生可能エネルギー事業に本格参入し、今では太陽光や風力発電所など全国に81カ所展開し、発電能力を示す「定格容量」は原発1基分を超える国内有数の規模(約63万世帯相当)に育ってきました。東急不動産は郊外で大規模な住宅地開発をしたノウハウがあり、それを活用して再エネ発電所を全国で開発しています。今は発電した再エネ電力を電力会社へ売電していますが、非化石証書の仕組みを活用し、昨年「広域渋谷圏」などの自社保有の17施設を再エネに切り替えました。今後も自社施設に随時、再エネ電力を取り入れていく方針です。

Q.自社施設を再エネ化するメリットは何ですか。

 当社グループの事業活動での環境負荷を軽減できると同時に、当社グループのオフィスビル・商業施設に入居するテナント企業も再エネを活用し、環境対応することができます。世の中の環境への関心が高まる中、この付加価値は当社物件の競争力強化につながるものです。外資系など一部のテナントでは「環境対応をしていないビルには入居できない」という意見も出てきました。今後、国内の企業などにも同様の考え方は広がるはずです。

Q.「環境先進企業」としてのゴールはどこに据えていますか。

 環境対応にゴールはありませんが、まずは自社発電した再エネを活用することで、東急不動産が保有するオフィスビル・商業施設の全施設を2022年に再エネ化することを決めました。さらにZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)などの環境配慮型の物件を開発していくなど、環境負荷軽減に向けた取り組みを進めていきます。

Q.具体策はどのようなものを考えていますか。

 東急不動産の分譲マンションBRANZ(ブランズ)は今年から物件コンセプトを「環境先進マンション」へリブランディングを行いました。オフィスビルでは環境に配慮したサステナブルなコンパクトビル「COERU(コエル)」シリーズを首都圏で展開していきます。最近では「環境負荷の低い建物に建て替えるより、古い建物をそのまま改装して使う方が環境負荷が軽減できる」との指摘もあります。当社が約45年前に開発し、当社グループの東急コミュニティーが管理している千葉県の団地「我孫子ビレジ」では、長期間の適切な管理がなされている証となる長寿命建築として、公的な賞(第31回BELCA賞ロングライフ部門受賞)を頂くことができました。

 当社グループは建物を開発するだけではなく、高品質の管理サービスまで含めた一貫体制が強みです。また、オフィスビルでは株式会社再生建築研究所と組み、老朽化による様々な課題を抱える物件に対して、既存躯体を生かして再生建築する手法で、サステナブルな社会の実現を目指しています。

Q.環境にこだわっている理由は何でしょうか。

 環境への関心の高まりを受け、同業他社も含め国内外の各社が環境対応に注力していますが、当社グループは田園調布の開発をルーツとする緑と調和した街づくりや、緑を取り入れたオフィスの開発など、これまでも先進的な取り組みをしてきたという自負があります。

 今後、企業、個人とも環境への関心はますます高まっていくでしょう。当社グループは創業以来、数々の社会的問題を解決してきたDNAを生かし、今後も再エネ発電所の新規開発、環境に優しい建物の開発などを通じ、「環境」で不動産業界をリードしていきたいと考えています。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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