ロシア・ウクライナ戦争が終わらせた米ロ軍備管理体制:核の恫喝が対中抑止に持つ含意(下)

現状の中国には米ロとの軍備管理を議論する意志が見えてこない(中国建国70周年軍事パレードに登場したICBM「東風41」。手前は閲兵する習近平国家主席=2019年10月1日) (C)時事/中国中央テレビのウェブサイトより
「戦略的安定性」の動揺
軍備管理の役割は、一義的には「戦略的安定性」の維持にあると言われている。すなわち、相互確証破壊の状態にある国家同士の対立が先鋭化し武力衝突にエスカレート(それは核使用を、究極的には全面戦争を意味する)することを回避し(危機の安定性)、安全保障のジレンマ(双方が、自らの安全を追求するがゆえに相手を不安な状態に陥れること)が生じぬよう軍拡競争を抑制することで(軍備競争の安定性)、米ロ関係の破綻と破局的な結末の防止が予定されてきた。つまり、単に相互抑止の状態にあるだけではなく、その状態を安定化させるためにルールを決めて「制度化」し、両者の行動が予見可能な状態を維持できるような関係性に貢献したのが軍備管理である。

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