
韓国政権の中枢に「言論弾圧プランの設計者」が復帰するかもしれない。
5月30日、尹錫悦大統領は文在寅(ムン・ジェイン)前政権で任命された韓相赫(ハン・サンヒョク)放送通信委員会委員長を免職処分にした。保守系ケーブルテレビ局の再認可審査に不当に関与した疑いで起訴されたことが理由だが、同委員会は公共放送KBSの事業や人事をはじめ、放送政策に強い権限を持つ大統領直属機関である。そのトップの免職は極めて異例だと言える。
後任に有力視されるのは、現在は大統領室対外協力特別補佐官を務める李東官氏だ。韓国の聯合ニュース(6月1日付)は大統領室の関係者の話として「尹錫悦大統領は、6月上旬に一部の閣僚人事を行い、放送通信委員会の委員長に李東官氏を指名する予定である」と報じ、世論は「同委員長に李東官氏を内定」と認識するようになった。
尹錫悦大統領は6月29日、一部の閣僚人事を発表したものの、予定していた放送通信委員会委員長の指名はなかった。だが、その理由について大統領室関係者は「検討すべきことが残っている」と話し、放送通信委員長に李東官氏を指名する動きについては否定していない。
放送通信委員会長は長官級のポストであり、尹錫悦大統領が李東官氏を同委員長に指名すれば、国会の「人事聴聞会」は必要だ。国会は、李東官氏が同委員長に適切か不適切かを明記した「聴聞報告書」を大統領に送付する。大統領は「聴聞報告書」を受け取った後、李東官氏を正式に同委員長に任命するかを決める。ただし、最終的な判断は大統領に委ねられているため、指名があればその後の任命はほぼ確実と見られる。
一方で、同氏は保守系李明博(イ・ミョンバク)政権時代(2008年2月~2013年2月)に政権とメディアの対立に深く関わったとされ、メディアと革新系野党は激しく反発している。世論も彼の指名に好意的ではない。正式な指名さえ行なっていない人事に世論が反発するのも異例だ。
なぜ、そんな「反発必至」の人物が浮上するのか。ここには、支持率低迷からの脱出にメディアを利用したい尹政権の思惑が透けて見える。……

「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。