
東証プライム市場に上場するトビラシステムズの株価が急騰した。8月24日に894円だった株価は8月31日には1031円と、わずか1週間で15%も上昇した。トビラは迷惑電話防止フィルターが主力といえば、その理由は明らかだろう。国番号「+86」からの嫌がらせ電話が日本列島を絨毯爆撃しているからだ。
トビラによれば、8月24日の福島第一原発ALPS処理水の海洋放出開始後、国番号「+86(中国)」から国内への電話が急増している。8月25日には中国からの着信件数は前週の30倍超に達した。官公庁や教育機関、医療機関など契約先の法人ばかりでなく、個人の携帯電話も中国からの電突の的になっている。
同社では迷惑電話の可能性がある番号を順次「迷惑情報データベース」に登録している。「迷惑情報データベース」に登録された電話番号からの着信は、同社の各サービスを使えば警告・拒否等が可能となるという。問題は特定の電話番号を着信拒否しても、次から次へと別の番号から電突して来る場合。つまり毛沢東流の人海戦術への防御だ。
そこでトビラは、特定の国番号からの着信を一括拒否する新機能を提供することにした。「+86」を設定することで、中国からの着信を一括で拒否する。ただし中国企業を取引先とする場合に備えて、着信を許可する個別の電話番号の設定を可能とする。つまり取引先企業の「+86-XXXXXXXXXXX」からの着信のみ拒否対象から除外できるようにするのだ。
反日の経済的影響は限定的
中国が8月24日に打ち出した日本産水産物の全面禁輸は、嫌がらせ電話に比べれば実害がある。中国への日本産水産物の輸出額は2022年には871億円。ポイントはこの規模感である。中国は水産物の最大の輸出先だが、年間871億円という金額は日本の水産業が身動きのとれなくなる金額ではない。水産業の年間産出額は1.38兆円だ。
「食べて応援! ふるさと納税で地域の漁業を応援しよう!」。ふるさと納税のポータルサイトである「ふるさとチョイス」はこんなキャンペーンを始めた。例えば禁輸措置で痛手を被ったホタテの返礼品は2225件(9月5日現在、品切れ中含む)あり、魚貝類全体の返礼品は5万1390(同前)件にのぼる。
「常磐もの」といわれる水産物の産地、福島県いわき市へのふるさと納税は急増している。22年度の全国のふるさと納税の件数は5184万件、納税額は9654億円にのぼる。いずれも前年度比2割増となるなど、大きなうねりが起きている。ふるさと納税が水産物の返礼品に向かうようだと、中国による禁輸措置への相当な対抗力になるはずである。
中国による反日活動は今回が初めてではない。05年には日本の国連安保理常任理事国入りに反対する大規模な反日活動が起きた。10年と12年には尖閣諸島をめぐって反日のマグマが沸騰した。日貨(日本製品)排斥ばかりでなく、日本企業の工場や商業施設が焼き打ちに遭った。10年にはレアアース(希土類)の対日輸出禁止、準大手ゼネコン、フジタの現地社員拘束に発展した。
今回も中国側が事態をどこまでエスカレートさせるか予断を許さない。8月に解禁した日本への団体旅行の蛇口を再び締めるかかがひとつの注目点。仮に中国からのインバウンド(訪日)観光が真っ盛りだった19年に今回のような出来事が起きていたら、中国側のカードは相当に効果的だったかもしれない。だがコロナ禍の3年間に事態は様変わりした。
インバウンド観光が中国抜きでも十分にやっていけることが数字で示されたからだ。23年4~6月の訪日観光客の消費額は1.2兆円。コロナ前のピークだった19年4~6月の1.3兆円と肩を並べるまでにインバウンド消費が回復しているのである。円安の追い風で世界中の観光客が日本を訪れ、観光消費を増やした結果である。
注目すべきは訪日客1人当たりの観光消費額。19年の15.5万円から23年には20.5万円と32%も急拡大しているのである。すでに観光地ではオーバーツーリズム(観光公害)が指摘されだしている折でもあり、中国からの団体旅行の殺到には懸念の声もあった。そんななか、仮に中国が団体旅行の蛇口を締めるとしても、効果は限定的だろう。
米企業が意識している「中国リスク」
もちろん、中国が日貨排斥をエスカレートさせれば、対中輸出の減少を通じて日本経済には下押し圧力が働く。22年度の日本の中国向け輸出額は18.5兆円。それが1割減れば1.85兆円、2割減れば3.7兆円の直接的なマイナスが生じる。影響は輸出関連の産業にも及ぶから、日本経済へのインパクトとしても見逃せない。
とはいえ、10年や12年のような日貨排斥に踏み切る際には、中国側が被るダメージも無視できない。ひとつは米国の立ち位置だ。米国は10年や12年にはバラク・オバマ政権の下で中国寄りの姿勢をとっていたが、今や世論や議会の突き上げもありジョー・バイデン政権は中国側に甘い姿勢はとっていない。
〈日本の説明評価/中国反応「とんでもない暴挙」〉。ラーム・エマニュエル駐日米国大使は9月1日付『日本経済新聞』朝刊にこんな一文を寄稿した。日本産水産物の輸入停止などに踏み切った中国の姿勢を真っ向から批判する内容だ。仮に中国側が日貨排斥をエスカレートさせるようだと、米国は中国非難の声を高めるだろう。世界貿易機関(WTO)で中国の肩を持つ国は少なかろうし、秋口の一連の国際会議の空気も好意的なものとはなるまい。
もうひとつは、中国側にとってより深刻な話である、投資マネーの中国離れだ。……

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