Weekly北朝鮮『労働新聞』 (38)

候補者選定で一部競争原理が導入された改正選挙法(2023年11月5日~11月11日)

執筆者:礒﨑敦仁 2023年11月13日
タグ: 北朝鮮 金正恩
エリア: アジア
11月26日実施予定の地方選挙に向けて、啓発ポスターが街頭に掲出された(『労働新聞』HPより)
改正選挙法は、代議員候補者の選定で部分的に競争原理が導入されるが、実態は党と最高指導者への忠誠心を競わせるものに他ならない。11月26日実施予定の地方選挙をはじめ、来年3月の最高人民会議代議員選挙でも適用される。また経済面では、穀物生産と住宅建設で成果を強調している。『労働新聞』注目記事を毎週解読
 

 11月8日付1面に掲載された社説は、26日実施予定の地方選挙を取り上げた。8月末に改正された選挙法に基づいて実施される選挙では、「国家と人民に良心で、信念で、真心で仕えることができる人、わが党、わが国家、わが人民のために一つでもより有益で素晴らしい仕事を見出して実行する人だと確固として認められる代表が代議員に選出されることになる」と述べられた。改正選挙法の全文はまだ公表されておらず、この社説の記述だけでは具体的な改正点が分からない。

スクリーニングで党と最高指導者への忠誠心競争

 この件について詳しく報じているのは、政府(最高人民会議常任委員会及び内閣)機関紙『民主朝鮮』である。北朝鮮国内では『労働新聞』のように重視されていないが、われわれの分析対象としては重要である。『民主朝鮮』は、選挙準備の様子について連日のように報じ、10月18日付、20日付、21日付には選挙法についての「法規解説」が掲載された。今月の地方選挙を経て、来年3月には第15期最高人民会議代議員選挙も実施される見込みであることから、ここで簡潔に整理しておきたい。

「法規解説」冒頭では、「すべての幹部は、いつでも『人民』という二つの文字を心に刻み、人民が望んで好むことにすべてを捧げなくてはならず、人民が苦しんでいる問題、人民が要求する問題を解決してやることで真のやり甲斐を感じなくてはなりません」との金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の「お言葉」が紹介されている。

 従来の選挙法と大きく異なるのは、本選挙前の候補者選定を投票によって行う、スクリーニングの段階が部分的に導入されたことである。……

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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