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「祖国解放」80周年、ロシアとの蜜月を反映しての歴史観修正は限定的か(2025年8月10日~8月16日)

執筆者:礒﨑敦仁 2025年8月18日
タグ: 北朝鮮 ロシア
エリア: アジア
祖国解放80周年の慶祝イベントにヴォロージン・ロシア下院議長(左)とともに出席した金正恩国務委員長[2025年8月16日に朝鮮中央通信社が配信=北朝鮮・平壌](C)AFP=時事
8月14日の祖国解放80周年慶祝大会にはロシアの下院議長や大使らが参加した。北朝鮮において朝鮮半島解放の主役は金日成とされてきたが、この日の金正恩国務委員長の演説では金日成に触れず、代わりに赤軍の功績に言及した。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】

 8月15日付は、前日14日に平壌(ピョンヤン)で開催された「祖国解放80周年慶祝大会」について大きく報じた。金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の横にはロシアのヴャチェスラフ・ヴォロージン国家院(下院)議長が立った。慶祝大会には朝鮮労働党と政府の幹部、抗日革命闘争縁故者の遺児、愛国功労者、革命学院の教職員、生徒らが参加したほか、訪朝中のロシア国家院代表団と文化省の代表団、大使を含む在北朝鮮ロシア大使館員が招待されたという。

 崔龍海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員会委員長による祝辞では、「日帝植民地支配に終止符を打って、国権回復の世紀的大業を達成した」金日成(キム・イルソン)氏が称えられたほか、ソ連軍将兵の「崇高な国際主義精神と武勲」への言及もあり、その「血で結ばれた団結と友誼」が21世紀の現在も同盟関係へと発展していることについて述べられた。

 ヴォロージンがウラジーミル・プーチン大統領からの祝賀書簡を代読した。「80年前、(ソ連の)赤軍部隊と朝鮮の愛国者部隊が関東軍を撃滅し、朝鮮における日本の植民地支配に終止符を打った」ことによる「戦闘的友誼と友好、相互援助の絆」が現在も強固に残っているという内容であった。

 続いて金正恩が演説を行った。赤軍への言及は2回見られたが、金日成に対する言及はなかった。主に自主独立を勝ち取った精神を継承することの重要性に重きが置かれ、次のような表現が用いられた。

「祖国と革命のために生命も惜しみなく捧げ、愛するわが子も躊躇うことなく送り出し、その道で不帰の客となった息子、娘を持っているならば、それを悲しみではなく光栄と思うこの国の人民の特有の強靭さは、抗日の日々から今日に至るまで一点の曇りもなく一世紀に亘って受け継がれました」

 そして、「祖国の勝利と栄光に捧げられた人生を最も貴く、幸せな人生とみなすわが人民の高潔な人生観」が継承されていることは、「朝鮮人民の第一の優秀性であり偉大性」であるとされた。

 14日夜、金正恩はヴォロージンとともに慶祝芸術公演も観覧した。ロシアからの訪朝団のために、「国の自主権と尊厳、惑星の平和と安寧のために闘っているロシアの軍隊と人民の勇敢さと頑強さ、熱烈な愛国心と楽天性」を反映したというロシア歌謡メドレーも披露され、公演はロシアの国歌で締め括られたという。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治外交。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、『北朝鮮を読み解く』(時事通信社)、共著・編著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)、『北朝鮮を解剖する』(慶應義塾大学出版会)など。
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