ロシアがウクライナへの侵略を開始してから丸2年が経とうとしている。この間、戦況についてはメディアが詳しく報じてきたが、侵略を行っているロシアの軍事力がどのような状態にあるのかについては意外に報道が少なかった。もともと情報公開の限られた国であったところに来て、戦時下で情報統制がさらに厳しくなったためだろう。
ただ、北朝鮮のようにあらゆる報道や言論が国家の統制下に置かれるというところまでは至っておらず、一定の情報は依然として入手可能である(何しろ筆者が購読契約しているロシア軍の部内誌もまだ届いているくらいなので)。そこで本稿では、この2年間でロシアの軍事力がどう変化したのかを見ていくことにしたい。注目したのは、「ヒト・モノ・カネ」の3点である。
世界第4位「150万人」をめざすロシア軍
まずはヒト、すなわちロシア軍の人員充足状態についてみていくことにしよう。
ロシア軍の定員は大統領が大統領令で決定することになっており、開戦前にはこれが101万3628人とされていた。最末期のソ連軍が大体500万人であったことを考えると、ロシアの軍事力は30年ほどのうちに5分の1に縮小したことになる。世界ランキングで見ても、かつてのソ連軍は中国人民解放軍をも凌いで世界最大であったが、開戦前には第5位まで低下していた。しかもこれは定員であって、実際の充足率は9割強とされていたから、実勢は90万人台前半というところであったと思われる。ロシアの人口(2021年当時、1億4340万人で世界第9位)や経済力(同時点で国内総生産1兆8400億ドルと世界第10位)を考えると、平時においてロシアが維持できる軍事力の上限がこの程度であったということであろう。
ところが2022年にウクライナ侵略が始まったことで、ロシアは平時の国家ではなくなった。当初、ロシアはごく短期間でウクライナを屈服させられると考えていたようだが、実際には戦争は長引き、戦時体制へと移行せざるを得なくなったのである。
そこで同年8月、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は軍の定員を115万628人へと増強するとした大統領令に署名した。翌9月には第二次世界大戦後で初めての動員令が出され、30万人の民間人予備役と1万8000人の志願兵がロシア軍に集められた。仮にこの時点までに侵攻兵力の3分の1程度(15~19万人のうち5~6万人)が死傷したとすると、生き残った兵力は85万人内外というところであろうから、これに9月の動員でかき集めた兵力を足すと、この時点でロシア軍の兵力はすでに大統領令の規定いっぱいに達していた可能性が高い。なお、ここには民間軍事会社ワグネルとドネツク及びルガンスクの親露派武装勢力それぞれ数万人は含まれていない。
さらにこの年の12月に開催されたロシア国防省拡大幹部評議会において、セルゲイ・ショイグ国防相は、ロシア軍の兵力を150万人まで増強するという構想を明らかにした。フィンランドとスウェーデンのNATO(北大西洋条約機構)加盟に対抗してロシア北西部の安全を確保するため、というのがその名目であり、実際にこうした目的は存在するのだろうが、まずもって現在進行中の戦争のために兵力増強を図ることが目的であったと思われる。
この兵力増強は2026年までかけて実施される予定であり、手始めに、ロシア軍の定員を132万人とする大統領令が2023年12月には出された。この間にロシア軍は41万人の志願兵を集めたとされ、死傷者を差し引いても、ロシア軍の規模は大統領令がいう132万人程度に既に達している可能性が高い。仮に今後3年かけて兵力が本当に150万人まで増加するなら、ロシアは中国、米国、インドに次ぐ世界第4位の軍事力を持つことになる。
命脈を保ったロシアの軍需産業
続いてモノ、すなわち兵器その他の軍用装備の調達状況について考えてみたい。……
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