オランウータンも薬草で傷を治療? 認知能力の起源に新たな可能性

2024年5月19日
タグ: 野生生物
エリア: アジア
 
右目の下に傷を負ったスマトラオランウータンのオスが、薬効のある植物を使い自身で傷を治療した。植物を用いた傷の積極的な治療のために必要な認知能力が、オランウータンとヒトの最後の共通の祖先にさかのぼる可能性があることが分かった。
右目の下に傷のあったスマトラオランウータンのラクスは、薬草を使って自己治療をした (C)REUTERS/Safruddin

[ロイター]2022年6月、ラクスと名付けられたスマトラオランウータンのオスが、右目の下に顔の傷を負った。別のオスとの争いで負傷したのだろうか。インドネシアで保護されている熱帯雨林のスアク・バリンビン研究ステーション付近でのことだった。

 その後の3日間でラクスがとった行動は、研究者たちを驚かせた。ラクスが、痛みを和らげ、傷の治癒を促すことで知られる植物を使い、傷を治療するかのような行動をとったのだ。この発見は、5月2日に学術誌『Scientific Reports』に掲載された論文で発表された。

 ラクスが使っていたのは、アカル・クニン(学名:Fibraurea tinctoria) と呼ばれる常緑の蔓植物。抗菌、抗炎症、抗真菌、および抗酸化性を持つことで知られる。ドイツのマックスプランク動物行動研究所の霊長類学者・認知生物学者で論文の筆頭著者であるイザベル・ラウマー氏によると、ラクスはアカル・クニンの葉を噛んで出た液体を傷に何度も塗り、噛み砕いた葉も、絆創膏のように直接傷口に付けた。

 さらにラウマー氏は、ラクスがアカル・クニンを食べたと話す。この泥炭湿地林では絶滅危惧種のスマトラオランウータン約150頭が暮らすが、ここに暮らすオランウータンたちがアカル・クニンを食べることはめったにない。

 同研究所の進化生物学者で論文共著者のカロリーネ・シュプリ氏は「野生動物が、薬効をもつ植物を意図的に傷の治療のために使うことを記録した初めての事例だ」と述べた。

 ラクスは1989年生まれとされ、フランジと呼ばれる大きな頬パッドを持つ、地域の中で有力なオスの一匹であった。

薬草を塗る前のラクスの傷(C)REUTERS/Armas

 研究者チームは、ラクスが傷を自ら治した行動が偶然の出来事ではないと考えている。……

カテゴリ: 医療・サイエンス
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