
自民党の国防族議員の間では、中長期的に防衛・安全保障政策を担える中堅議員が少ないことが悩みの種となっている。昨年秋から次期戦闘機の輸出を巡って公明党との間で亀裂が生じた際も、声高に強硬論を叫ぶばかりで建設的な動きができた議員は見当たらない。この「静かな有事」に、あるベテランが密かに議員連盟を立ち上げて実務のできる中堅層の育成に着手した。明日の防衛相を担える自民党の人材とはどのような人物か。
こだわりが強く声が大きいベテラン勢
「自民党の国防部会と言えば、“ひな壇”に座るベテラン勢が熱くなりがちで話もマニアックで長く、若手議員から敬遠されている印象がある」
国防族議員が活躍する舞台となる自民党の安全保障調査会・国防部会について、ある党関係者はこう声を潜める。“ひな壇”とは、会合の司会を務める国防部会長や安保調査会長らとともに、参加者と向かい合うように前の席に座る顧問たちのことだ。
具体的には石破茂氏(67)、岩屋毅氏(66)、中谷元氏(66)、江渡聡徳氏(68)ら歴代防衛相経験者が勢ぞろいする。彼らは「インナー」と言われる非公式の幹部会に参加するメンバーで、何か意思決定を行う際にも事前に幹部会を通すのが通例になっており、これを破ると「やり直しを求められることすらある」(防衛省関係者)のだという。
一般に大臣適齢期となるのは衆院当選5回、参院当選3回とされ、これより若いと「若手起用」などと言われる。国防族の中心的存在は現在、当選8回の小野寺五典氏(64)だが、既に防衛相を2度務めた大ベテランだ。
当選5回で現職防衛相の木原稔氏(54)は、知識にも実務にも長けている数少ない中堅のエース的な存在だ。万博担当相として先に初入閣を果たした当選同期の若宮健嗣氏(62)も国防族だが、選挙基盤が不安定で選挙区では立憲民主党候補に敗れ、比例復活当選なのが玉に瑕だ。
他に該当者と言えば衆院では大塚拓氏(50)、参院では元陸上自衛官で「ヒゲの隊長」こと佐藤正久氏(63)だ。両氏は本格的に防衛・安保に軸足を置くスペシャリストと言える存在だが、いずれも防衛政策へのこだわりが強過ぎるきらいがある。
「2人とも自負があるからか防衛官僚への当たりがかなりきつい。詳しいだけに質問が細かくて大変」
ある防衛省関係者はこう打ち明ける。説明に納得がいかないと官僚を何度も自室に呼びつけるという。こうした評判は首相の耳にも入っているようで、2人とも「大臣になれそうでなれない人」としての地位が定着しつつある。
「次の防衛相」候補の顔ぶれは?
2022年夏の内閣人事で岸田文雄首相は岸信夫防衛相(65)の後任選びに頭を抱えていた。防衛省は年末にかけて国家安保戦略などの「安保3文書」の改定を控えており、日本の防衛政策上、大きな転換点を迎えるからだ。
中でも焦点の一つとなったのが、大幅な増額が予定された5年分の防衛予算だ。出来る限り小幅な増額に抑え込もうとする財務省とのハード・ネゴシエーションに当たる大役に、木原氏や若宮氏、大塚氏や佐藤氏が大臣候補となった。
だが、最右翼だった木原氏が統一教会問題を抱えることとなる。悩んだ挙句、岸田首相が白羽の矢を立てたのが、当選10回の大ベテラン、浜田靖一氏(68)だった。
浜田氏は2008年、麻生太郎内閣で防衛相として初入閣。財務省ににらみを利かせる麻生氏との関係が良好という理屈は立つが、裏を返せばベテランを再登板させないといけないほど人材は枯渇しているとも言える。
2023年11月から24年3月にかけて公明との間で起きた次期戦闘機の輸出解禁を巡る問題では、国際共同開発した完成品の輸出解禁に突如として反対し始めた公明に対し、「ちゃぶ台返しだ」(中堅議員)と痛烈な批判を浴びせたまでは良かった。その後、「連立関係を解消すべきだ」(別の中堅議員)などと過激な主張も飛び出し、公明の山口那津男代表を説得するよう岸田首相に求める決議を採択するかどうかで党内は揉めに揉めた。
安保調査会長で首相が率いた旧岸田派(宏池会)に所属した小野寺氏も、自公間あるいは首相と所属議員の間の仲裁役としての役割が期待されるが、存在感を発揮しきれたとは言い難い。この問題では、最後は全く防衛に通じていたわけではない渡海紀三朗政務調査会長が公明側と折衝し、個別案件ごとに閣議決定を経るという国防族にとっては不本意な結論を得ることとなった。
中堅層に有力議員が見当たらない中、昨年秋の臨時国会会期中に、国防族議員を中心にある議員連盟が設立されたことはあまり知られていない。

「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。