1. 勢いづくハリス陣営
米大統領選から撤退したジョー・バイデンに代わり、8月2日、カマラ・ハリス副大統領が民主党の大統領候補の指名獲得を確実にした。その数日後には、「出身地は異なるが、価値観を共有している」とハリスが胸を張るティム・ウォルズが副大統領候補に正式指名された。
ハリスは、進歩的なカリフォルニア州生まれで検事としてエリートコースをひた走ってきた。これに対してウォルズは中西部ネブラスカ州に生まれ、公立高校の教職に就きながら24年間州兵を務めた後、40代で2007年に連邦議会の下院議員に就任、2019年にはミネソタ州の知事に就任し、現在2期目を務めている。下院議員時代は保守的な農村部の選挙区で勝利を重ねた実績を持ち、ミネソタ州知事としては、人工妊娠中絶の権利やLGBTQの権利の擁護、学校給食の無償化、有給休暇の拡大など、リベラル寄りで中間層重視の政策を次々と実施してきた。
白人男性で労働者階級出身のウォルズは、ハリスではなかなかリーチできない白人労働者対策という面が強いが、そのアピールは労働者にとどまらない。自らも白人男性というマジョリティであり、保守的な地方に育ちながらも、マイノリティの権利を追求してきたウォルツの誠実さは、若者たちにも広く支持されている。若者の政治参加の促進のために全米で活動を展開する「明日の有権者(Voters of Tomorrow)」は声明を出し、「知事のリーダーシップとLGBTQ+の権利、生殖の自由、平等への揺るぎない支持は、田舎や労働者階級の若者を含むすべてのアメリカ人に恩恵をもたらす」と全面的な支持を表明した1。
3カ月後に大統領選が迫る中での劇的な候補者の転換。前代未聞の事態は、民主党を結束させ、ハリス陣営には強い追い風が吹いている。バイデンが候補者であったときには、PredictItやPolymarketといった賭け選挙サイトでドナルド・トランプがほぼ一貫して優勢だったが、ハリスに代わった後はトランプと拮抗し、主要な激戦州での世論調査でも、ハリスはトランプを猛追し、リードする州もでてきている。
2. 「ジェノサイドには投票しない」――イスラエル政策の転換を迫る声
しかし、こうした団結を脅かしうる不安材料がないわけではない。8月19日に開幕する民主党の全国大会に向けて、ハリス・ウォルズ陣営は一つの難問を突きつけられている。
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