アメリカ大統領選挙の一般投票まで、1カ月を切った。一時は「ほぼトラ」、銃撃事件後には「確トラ」とまで言われていたドナルド・トランプ前大統領の勢いが、民主党候補がジョー・バイデン大統領からカマラ・ハリス副大統領に代わったことで削がれてしまい、ほぼ互角の勝負となっている。大統領候補間での2回目の討論会は今の段階では行われない可能性が高いことを考えると、何らかのサプライズが発生することがない限り、ハリスとトランプの間でのアピール合戦、動員合戦の成果によって大統領選挙の結果が決まることになるだろう。
今後、二大政党の候補は、いわゆる接戦州を中心に選挙戦を展開することになる。大統領選挙は、全50州とコロンビア特別区(ワシントンD.C.)に割り当てられた選挙人(538人)の過半数、すなわち270以上を取った候補が当選する仕組みになっている。48州およびコロンビア特別区が1票でも多くの票を獲得した候補に全ての選挙人を与える勝者総取り方式を採用しているが、40以上の州ではどちらの候補が勝利するか、ほぼ決まっているといわれている。今回、勝敗は7つの接戦州、すなわち、ミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ネバダ、アリゾナ、ジョージア、ノースカロライナの7州の結果で決まると指摘されることが多い。これに加えて、実はネブラスカ州第二選挙区の状況が選挙結果に大きな影響を及ぼす可能性もあるかもしれない。
最新の各種世論調査によれば、接戦州のいずれもハリスが僅差で優勢とされることが多い。だが、2016年と2020年の大統領選挙でも、トランプが世論調査から予想されたよりも多くの票を獲得したことを考えると、実態としてはほぼ差がないというべきだろう。いずれの激戦地においても都市部では民主党が優位し、農村部では共和党が優位している。そのため、自党に投票する可能性が高い有権者をいかに投票所に向かわせるか、どちらに投票するか決めかねている郊外地域の住民からどれだけの票を上積みすることができるかが、激戦地での勝敗の決め手となるだろう。
以下では、これらの激戦地の中でも重要性の高い、ペンシルベニア、ノースカロライナ、そして、ネブラスカ州第二選挙区を取り巻く情勢について概観することにしたい。
ペンシルベニア――フラッキング・銃規制・プエルトリカン
接戦州の中でもミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアは長らくブルー・ウォール(青い壁)と呼ばれ、伝統的に民主党が強い地域だとされてきた。この中で、ハリスにとって最も厄介なのは、ペンシルベニア州(選挙人数19)である。
ペンシルベニア州は2012年選挙まで6度続けて大統領選挙で民主党が勝利していたが、2016年にはトランプが勝利した。その大きな要因の一つはフラッキング(水圧破砕法)をめぐる論争である。フラッキングは高温岩体地熱発電やシェールオイルの採取に用いられる方法だが、環境汚染の可能性があるということで、民主党の岩盤支持層である環境保護団体が強固に反対していた。同州西部ではフラッキングが一大産業となっていることもあり、2016年には同産業従事者を中心にトランプに投票する人々が増えたとされる。
また同州は、銃の販売数が多い州でもある。銃規制は、かつては必ずしも党派性を帯びた争点ではなく、民主党の政治家の中にも全米ライフル協会(NRA)の支持を得ている人もいた。
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