ウクライナ停戦を望むのは誰か:トランプ式「ショック療法」がゼレンスキー、プーチンに与える影響
「米国至上主義」を掲げるドナルド・トランプ前米大統領が来年1月20日、ホワイトハウスに復帰することで、ロシア・ウクライナ戦争や米露関係への波紋が注目される。「24時間で戦争を終結させる」「就任前にも和平が可能」と豪語するトランプ氏の復権は、長期化する戦争を終わらせる「ショック療法」となり得るのか。
トランプ次期政権がウクライナ戦争でどのような政策を打ち出し、それが長期化する「プーチンの戦争」を止める要素となるのかを探った。
「この戦争を終わらせたい」
9月10日、民主党の候補者交代後に一度だけ実施された大統領選の候補者討論会で、トランプ氏は「この戦争を終わらせたい。私はゼレンスキー大統領とプーチン大統領をよく知っており、彼らと良好な関係にある。彼らはバイデン大統領を尊敬していないが、私を尊敬している。この戦争は解決すべきだが、バイデン政権は何もしていない。私が大統領になったら、双方と交渉する。バイデンはこの2年間、プーチンに電話もしていない」と述べ、停戦に向けて仲介を務める意向を示した。
司会者は「あなたはこの戦争でウクライナを勝たせたいか」と二度質問したが、トランプ氏はそれには答えず、「この戦争を止めたい。無駄に命を落としている人を救いたい。何百万人もの人々が殺され、われわれは2500億ドル以上を負担した」「事態は悪化するばかりで、放置すれば、第三次世界大戦に発展する可能性もある。そうした中で、われわれの大統領がどこにいるのかさえ分からない」と述べ、バイデン政権の無策を非難し、停戦の必要を重ねて訴えた。
「ウクライナが必要とする支援の継続」を掲げたカマラ・ハリス候補が当選していれば、戦争の構図はそのままだが、トランプ氏の復帰は戦争の局面を変える可能性がある。
朝鮮戦争やベトナム戦争など、第二次世界大戦後、米民主党政権下で始まった大型戦争を、共和党政権が収拾したケースもある。
7月の共和党全国大会での指名受諾演説で、トランプ氏は「私が大統領だったら決して起きなかったロシア・ウクライナ戦争やイスラエルの攻撃による戦争など、バイデン政権が作り出した国際的危機を一つ残らず終わらせる」と豪語していた。
非武装地帯設置案も
ただし、トランプ氏は和平の具体案を示しておらず、陣営内部で検討作業が行われている段階のようだ。ロイター通信(6月26日)はトランプ陣営の安全保障問題アドバイザーがまとめたウクライナ戦争和平案を報道。「現在の戦線を境界線にして停戦を実行し、和平交渉を開始する内容だ」と伝えた。
それによれば、ウクライナが交渉に参加しなければ、米国は援助を停止し、ロシアが参加しなければ、ウクライナへの武器援助を強化する内容だという。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟は先送りするが、ウクライナが完全に領土を放棄することはなく、領土返還を主張できるという。要するに、停戦を最優先し、領土画定は交渉で決めるという方向のようだが、「トランプ氏はこれを承認したわけではなく、さらに細部を詰める」(ロイター)という。
ロシアの独立系情報アカウント「インサイダーT」は大統領選後、トランプ政権の和平案について、①1200キロの前線に非武装地帯を設置し、英国や欧州連合(EU)の部隊が停戦監視に当たる②ウクライナは20年間NATOに加盟しない③米国はウクライナへの武器援助を続ける――といった内容になると報じた。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。