在宅医療の生命線、「訪問看護」を食い物にする不正のカラクリ

執筆者:市川亨 2025年4月16日
タグ: 日本
厚労省は今年3月、訪問看護の指導監査を強化する方針を発表。有料老人ホームが多額の介護報酬を見込んで入居者を「囲い込み」する問題の検討会も立ち上げた (C)yu_photo/stock.adobe.com
看護師が患者の元を訪ねて医療的ケアや生活支援をする「訪問看護」を巡り、不正の疑いが相次いで明らかになっている。高齢化に伴うニーズの増加や、在宅型医療を拡充しようという政策に乗じて事業者が制度を乱用。その手法がビジネスモデルと化してしまっているのだ。患者は不正に気付きにくく、行政も縦割りでチェックが利かない。在宅医療の生命線とも言うべき制度が、倫理観に欠けた事業者の荒稼ぎの道具にされている。

 

「医療保険」適用の訪問看護は診療報酬が“青天井”

 訪問看護は通常、看護師らが患者宅を一軒一軒訪ねて回るものだ。家で療養している患者をケアしたり、終末期の高齢者を看取ったりする風景を思い浮かべる人が多いだろう。だが、最近は様相が変わってきている。精神科に特化した訪問看護ステーションと、老人ホームに併設されたタイプが増えているのだ。

 参入ハードルは低い。医師でなくても、法人を設立し、常勤換算で2.5人の看護職を雇えば事実上、誰でも開業できる。「ステーション」と言っても、例えばアパートの一室でもOKで、実際そういうケースは多い。

 制度はやや複雑だ。まず、患者の年齢や病気によって、介護保険が適用される場合と医療保険適用と大きく二つに分かれる。65歳以上の高齢者は基本的に介護保険。ただ、精神疾患や末期がん、難病の場合は年齢を問わず医療保険が適用される。

 不正の主な舞台は医療保険タイプのほうだ。なぜかと言えば、介護保険サービスは要介護度に応じて「支給限度額」という枠がはめられている一方、医療保険の場合は青天井に近いからだ。そして、介護報酬よりも診療報酬のほうが高めに設定されているため、ビジネスとしてのうまみが大きい。

精神科では「売り上げ最大化」が指示されるケースも

 厚生労働省によると、訪問看護の利用者は2023年現在、約122万人いる。そのうち医療保険の適用は約48万人。意外に思われるかもしれないが、その半分近くは主な傷病が「精神および行動の障害」。つまり、精神、発達、知的障害がある人たちだ。この背景には、世界的な潮流や国の政策で障害者の暮らす場が病院や入所施設から地域社会へと変わってきたことがある。

 精神科に特化した訪問看護で最大手とされるのが「ファーストナース」(東京)という会社だ。「あやめ」という屋号で約240カ所のステーションを各地に展開している。

 同社は2010年設立。民間信用調査会社によると、2017年から訪問看護事業を始め、年間30~50カ所のステーションを開設して事業を拡大してきた。事業規模は年間100億円ともされる。

 複数の現・元社員によると、

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執筆者プロフィール
市川亨(いちかわとおる) 共同通信社編集委員。1972年、山梨県生まれ。96年、共同通信入社。前橋、千葉、高知支局勤務、総務省や厚労省担当などを経てロンドン特派員。帰国後、社会保障分野を担当する生活報道部で編集委員を務め、現在は特別報道室に所属。
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