中国「独身の日」商戦の変貌が示す「増量経済」時代の終わり

IN-DEPTH【ニュースの深層】

執筆者:高口康太 2025年11月17日
タグ: 中国
エリア: アジア
熱狂は去り「シェアよりも着実な利益」が重要に[2025年11月11日、中国・北京](C)AFP=時事
11月11日の「独身の日」にちなんだEC大セールは、いまや秋の中国の風物詩。今年も流通総額で前年比14.2%増を記録した。だが、この数字にはからくりがある。商戦の変貌は不景気が原因というより、中国経済の構造転換を示すサインとして理解できる。

 中国で毎年11月11日をピークに行われるECイベント「ダブルイレブン」(双十一)は、世界最大のネットセールと言われる。日本では「独身の日」として知られるこのイベントだが、かつての熱狂を失っている。不景気が原因というより、中国経済の構造転換のサインとして理解するべきだろう。

 ダブルイレブン(11.11)とは2009年に中国EC最大手アリババグループが始めたセールだ。数字の「1」を枝のない棒に見立て、恋人がいない独身者がパーティーを開く「光棍節」という民間発のイベントに乗っかり、寂しさをお得な買い物でまぎらわす日となった。他のECサイトや小売店も追随し、中国最大のセールとなった。2025年のダブルイレブンのGMV(総流通額)は、前年比14.2%増の1兆6950億元(約37兆円)。楽天のGMVが年間約6兆円、その6年分以上を1回のセールで売り上げているわけだ。

 いったい、なぜこれほどの規模へと成長したのか。その根底にあるのは中国消費がひたすらにパイを拡大する「増量経済」だったためである。以前、ある日本の医薬品メーカーにダブルイレブン参加の理由を訪ねると、「顧客を増やすチャンスだから」が答えだった。セールになると、消費者は血眼になってお得な商品を探すようになる。「今年のダブルイレブン、ベストバイ10選」「この組み合わせが一番お得」といった買い物指南も出回る。この熱気に煽られ、新たな顧客とめぐりあうことができるのだ。

 セールの値引き分、無料ギフトのコスト、宣伝費の投入などのコストはかさむが、それでもブランド認知向上手段と割り切れば魅力的。投資分は将来回収できる……というのがこれまでのダブルイレブンだったが、近年は異なる。

カテゴリ: 経済・ビジネス
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
高口康太(たかぐちこうた) 1976年、千葉県生まれ。ジャーナリスト、千葉大学客員教授。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国・天津の南開大学に中国国費留学生として留学中から中国関連ニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。中国経済と企業、在日中国人経済を専門に取材、執筆活動を続けている。 著書に『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界 』(文春新書、共著)、『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、共著)、『中国S級B級論』(さくら舎、共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、共編、大平正芳記念賞特別賞受賞)、『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)、『習近平の中国』(東京大学出版会、共著)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top