80時間世界一周 (63)

オーストラリアはなぜ「多民族国家」となったか

執筆者:竹田いさみ 2009年11月号
タグ: 日本 中国 香港
エリア: オセアニア

 日一日と秋が深まっていく日本と正反対に、南半球のオーストラリアは早春を迎えようとしている。最大の都市シドニーでは冬の終わりを告げるかのように「赤砂」が吹き荒れた。中国の黄砂は日本でもお馴染みだが、オーストラリアでは内陸部の広大な砂漠から運ばれた赤い砂がシドニーの空を焦がした。 赤い砂や土で埋め尽くされた砂漠には、金、サファイア、鉄、石炭、レアメタル、ウラニウムなどが眠る。豊富な鉱物資源はオーストラリアを世界有数の豊かな国にしたが、赤い砂漠を掘ってきたのは移民労働者だった。 十九世紀に金鉱が発見されて以来、アジアやヨーロッパ大陸から大勢の労働者がオーストラリアにやって来た。一攫千金を夢見る人々の中には、オーストラリア政府にとって「好ましからざる者」も多数含まれていたため、移民対策は国家の政策の根幹をなすものだった。

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執筆者プロフィール
竹田いさみ(たけだいさみ) 獨協大学外国語学部教授。1952年生れ。上智大学大学院国際関係論専攻修了。シドニー大学・ロンドン大学留学。Ph.D.(国際政治史)取得。著書に『移民・難民・援助の政治学』(勁草書房、アジア・太平洋賞受賞)、『物語 オーストラリアの歴史』(中公新書)、『国際テロネットワーク』(講談社現代新書)、『世界史をつくった海賊』(ちくま新書)、『世界を動かす海賊』(ちくま新書)など。
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