スイス金融界復活のカギを握る「アルプス地下のデータセンター」

執筆者:磯山友幸 2011年5月31日
タグ: 日本
エリア: ヨーロッパ

「スイスの金融機関にとって最も重要なものは何だと思う?」
 東日本大震災から1カ月余りたったある日。スイスを訪ねた日本の投資銀行の幹部は、会食の席でプライベートバンクの経営者から、こんな質問を投げかけられたという。
 スイスの銀行と言えば、地下金庫に眠る金塊を思い浮かべる人が多いだろう。だが、経営者の答えはそうした金塊でも、宝石類でも証書類でもなかった。
 今やスイスの金融機関の生命線は顧客データそのもの。つまりデジタルデータだというのだ。
 日本の銀行幹部は膝をたたいた。というのも、東日本大震災では津波によって金融機関のコンピューターが流されたり、地方自治体が管理する住民基本台帳が失われて、大きな問題になっていたからだ。
 また震災直後には、みずほ銀行のシステムトラブルが発生。1週間にわたって、振り込みができなくなったり、現金自動預け払い機(ATM)が停止して、現金が引き出せなくなるなど、大きな社会問題になった。顧客のデータが何よりも大事だというスイスの銀行家の話に、反論の余地は無かった。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
磯山友幸(いそやまともゆき) 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト活動とともに、千葉商科大学教授も務める。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。
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