新CIA長官が就任演説で「独立した分析」が重要と強調した理由

執筆者:春名幹男 2011年9月7日
タグ: CIA NATO タリバン
エリア: 北米

 デービッド・ペトレアス前アフガニスタン駐留米軍司令官が夏休み明けの6日、米中央情報局(CIA)の第20代長官に就任した。
 新長官は、ワシントン郊外ラングレーのCIA本部講堂で行われた就任式で演説、世界各地に赴任するCIA要員に向かって「CIAは米国で最も偉大なタレントと能力を集めた組織の一つ」とCIAの能力を高く評価した。具体的には、「独立した分析」「機敏な工作」「進んだ技術」の重要性を強調した。
 この演説で、新長官が最初に「独立した分析」を指摘したことが極めて興味深い。というのは、新長官の赴任前の7月、CIAの分析部門が「アフガニスタンに関する地域評価」という文書で、アフガニスタンでの戦闘は「行き詰まる」との評価をまとめていた、と伝えられるからだ。
 内容的には、北大西洋条約機構(NATO)主体の国際治安支援部隊(ISAF)とタリバン勢力との戦闘が好転しないという分析で、ペトレアス前司令官自身が進めた3万人の米軍部隊増派がうまく行っていないことを指摘しているとみられる。
 実は、CIA分析部門のこの分析に新長官は同意しておらず、長官は就任早々内部対立に苦しむ、と予測したコラムが先週ワシントン・ポストに掲載されたばかり。
 新長官は恐らく、この問題が世間で論議されることがないよう、あえて就任演説で「独立した分析」の重要性を強調したに違いない。しかし果たして、現実には新長官と分析部門の関係はどうなるのか、余計に関心が強まるだろう。
 

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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