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東大医学部「教育改革」は道半ばか

執筆者:髙本眞一 2015年2月7日
カテゴリ: 医療・サイエンス

   1997年、母校の東大に胸部外科教授として戻ってきたとき、いちばん驚いたのは、私が卒業した約30年前と、カリキュラムがほとんど変わっていなかったことでした。教授たちは教育に興味を持っておらず、講義は教授の義務ではなく、むしろ自分たちの権利だと思っている様子でした。学生が、講義を聞こうが聞くまいが、まったくおかまいなし。出席しようが、出席しまいが気にしません。1学年、約100人近くいる生徒のうち10人しか出席しなくても、最終的に、期末のペーパー試験さえ受けて通れば問題なしとの風潮でした。

   東大の医学部の教授の関心は、もっぱら研究にあり、自分の講座から優秀な論文を発表するのに躍起です。私はそれを致し方ないとは思いませんが、そうであるのも仕方ないと納得する理由はあります。教授の評価は、研究論文の質と数でなされ、教育を一生懸命やっても誰からも評価されません。黙っていても全国各地から超一流の頭脳を持った人材が集まってくるのですから、教えることの努力などしなくても優れた人材をどんどん輩出できます。しかし、そういう考え方が悪しき伝統として何十年も続き、カリキュラムを根本的に変えようとする指導者はいなかったわけです。

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執筆者プロフィール
髙本眞一(たかもとしんいち) 1947年兵庫県宝塚市生れ、愛媛県松山市育ち。73年東京大学医学部医学科卒業。78年ハーバード大学医学部、マサチューセッツ総合病院外科研究員、80年埼玉医科大学第1外科講師、87年昭和病院心臓血管外科主任医長、93年国立循環器病センター第2病棟部長、97年東京大学医学部胸部外科教授、98年東京大学大学院医学系研究科心臓外科・呼吸器外科教授、2000年東京大学医学部教務委員長兼任(~2005年)、2009年より三井記念病院院長、東京大学名誉教授に就任し現在に至る。この間、日本胸部外科学会、日本心臓病学会、アジア心臓血管胸部外科学会各会長。アメリカ胸部外科医会(STS)理事、日本心臓血管外科学会理事長、東京都公安委員を歴任。 ↵手術中に超低温下で体部を灌流した酸素飽和度の高い静脈血を脳へ逆行性に自然循環させることで脳の虚血を防ぐ「髙本式逆行性脳灌流法」を開発、弓部大動脈瘤の手術の成功率を飛躍的に向上させたトップクラスの心臓血管外科医。
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