トルコが目指すイスラムと民主主義の共存

トルコが実践しつつある「世俗的イスラム民主主義」確立への試みを、日米欧は理解し評価すべきだ。 トルコは、麻生太郎元外相が唱えた「自由と繁栄の弧」の構想において、ヨーロッパとアジアを結び、ロシアと中東とカフカースをつなぐ国際関係の要に位置する国である。そのうえ、北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、イスラム諸国会議機構(OIC)や黒海経済協力機構(BSEC)といった個性的な国際機関でも中核の役割を果たすことが多い。イスラム世界とキリスト教国中心の欧州連合(EU)の双方に関わりをもち、中央アジアのトルコ系諸国にも影響力がおよぶトルコは、麻生外相の辞職とは関係なく、引き続き日本外交のユーラシア戦略にとって重視すべき国である。二〇〇六年の小泉純一郎首相の訪問だけでなく、〇七年の谷内正太郎外務事務次官によるトルコとインド訪問は、ユーラシア戦略におけるトルコの重要性を物語っている。

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執筆者プロフィール
山内昌之(やまうちまさゆき) 1947年生れ。東京大学学術博士。エジプト・カイロ大学客員助教授、米ハーバード大学客員研究員などを経て現職。イスラーム地域研究と国際関係史を専門とし、文化審議会、外務人事審議会、日本アラブ対話フォーラム、日中と日韓の歴史共同研究委員会などの委員としても活動。最新刊『歴史家の羅針盤』(みすず書房)ほか、『嫉妬の世界史』(新潮新書)、『歴史と外交』(中央公論新社)、『歴史のなかの未来』(新潮選書)など著書多数。2006年、紫綬褒章を受章。
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