原子力損害賠償機構法案の修正合意 ~株式市場は決着内容を誤解したのか?

執筆者:原英史 2011年7月24日
エリア: アジア

 

報道によると、民自公3党で「原子力損害賠償機構法案」の修正案につき合意が成立。26日には修正案が正式に提出され、早ければ来週中にも成立の見通しという。
 
修正内容は、報道によれば、
・国の責任を明確化すること、
・施行後の見直し、原子力損害賠償法の見直しなどを盛り込むこと、
などのようだ。
 
これまでのエントリーで、「政府の法案は、東電救済に過ぎないのでないか」と指摘してきたが、以上をみる限り、「国の責任」を明確化することで、より一層、東電の責任を軽減する方向になるようにも思われる。「国の責任」というのは、負担という視点で見れば、結局、国民が税金で負担することにほかならないからだ。
 
また、「株主の責任、金融機関の責任を明確に求め、会社更生型の破たん処理を行うべきでないか」という論点についても、決着が不透明だ。
これまで会社更生型の破たん処理を強く主張していた、河野太郎議員のブログでは、今回の決着は要するに二段階方式で、第二段階で破たん処理を行うということであり、「東電処理への大きな一歩」になるのだという。
 
だが、少なくとも、株式市場は、そう受け止めていない。つまり、「第二段階で会社更生型の破たん処理がなされる(つまり、株価がゼロになる)」とは捉えていない。
一時は146円(6月9日)まで下がっていた東電の株価は、修正合意が近いことが報じられるにつれて急上昇し、22日には一時643円に(終値は543円)。
ここ数日の市場は、明らかに、「これで東電の株式は救われた」と受け止めているのだ。
 
二段階方式の破たん処理というのは、第一段階で機構から支援がなされてしまうわけだから、それがどう扱われるのかも疑問だ。
結局、第二段階になると、「すでに機構からの支援がなされており、今さら破たんさせると、国民負担になってしまう」といって、破たん回避することにならないのか。
 
こうした疑問がいろいろとあるが、問題は、すでに「修正合意」ができてしまったことだ。
こうした与野党間の修正協議というのは、今回もそうだが、だいたい水面下でなされる。
そして、いったん合意が成立すると、国会の場での審議はほとんどせず、採決してしまうことが少なくない。
 
だが、今回のケースでは、このまま成立したのでは、決着内容があまりに不透明になってしまいかねない。
少なくとも、もし株式市場(世間一般と言い換えてもいいかと思うが)が決着内容を誤解している可能性があるのであれば、その誤解をきちんと解くだけの審議が必要だ。
オープンな国会審議の場で、修正内容が明確にされることを期待したい。
 
 
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執筆者プロフィール
原英史(はらえいじ) 1966(昭和41)年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問などを務める。著書に『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』、『国家の怠慢』(新潮新書)など。
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