メキシコ「自虐サッカー」の屈折と日本の課題

執筆者:星野 智幸 2015年8月5日
タグ: アメリカ 日本
エリア: 中南米

 7月末のメキシコ・リーグ開幕戦、強豪「ラ・マキナ(マシン)」ことクルス・アスルはホームにモナルカス・モレリアを迎えた。
 圧倒的に攻めながら決定機を外していたクルス・アスルは、前半30分になろうというところで、ついにPKを獲得する。キッカーは元メキシコ代表のボランチ、ヘラルド・トラード。
 だが、キックは左のゴールポストに当たり、跳ね返ったこぼれ球をクルス・アスルの選手が再びシュートするが、大きくバーを越えていった。クルス・アスルにとって、今年に入ってリーグ戦3本目のPK失敗である。
 とたんにホームスタジアムの怒りが爆発。「ロートルはとっとと引退しろ!」などとトラードを罵る怒号が渦巻いた。さらに数分後、トラードがボールを奪われてピンチを作ると、以後トラードは試合終了に至るまで、ボールを持つたび、自分を応援しているはずのサポーターたちからブーイングを浴び続けることになる。たとえそれがチャンスで決定的なパスを出すプレーだとしても。

カテゴリ: スポーツ 社会
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執筆者プロフィール
星野 智幸(ほしのともゆき) 作家。1965年ロサンゼルス生れ。早稲田大学第一文学部を卒業後、新聞記者をへて、メキシコに留学。1997年『最後の吐息』(文藝賞)でデビュー。2000年『目覚めよと人魚は歌う』で三島由紀夫賞、2003年『ファンタジスタ』で野間文芸新人賞、2011年『俺俺』で大江健三郎賞を受賞。著書に『ロンリー・ハーツ・キラー』『アルカロイド・ラヴァーズ』『水族』『無間道』などがある。
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