米中対話「習近平発言」を味読する

執筆者:村上政俊 2016年6月11日
エリア: 北米 アジア

 6月6日、7日に北京で開催された第8回米中戦略経済対話の開幕式での挨拶で、中国の習近平国家主席は太平洋について、「広大な太平洋は各国のゲームの競技場とすべきではなく、皆を受け入れ協力する大きなプラットフォームとすべきだ(寛広的太平洋不応該成為各国博弈的競技場、而応該成為大家包容合作的大平台)」と述べた。

太平洋は「ゲームの競技場」

 ゲームという語は、中国語では「博弈」となる。弈という漢字は現代日本語では使われないが、囲碁を打つという意味だ。現代中国語で博弈というと、ややもすれば子供の遊戯という意味合いを持つ日本語のゲームとは違って、「博弈論(ゲーム理論)」や「零和博弈(ゼロサムゲーム)」といった単語が連想される。
「競技場」も日本語の競技場とはニュアンスが異なる。東京五輪に向けて話題になっている「新国立競技場」のように、日本ではスポーツ施設に用いられるが、中国語でイメージされるのはローマのコロッセオのような闘技場であり、現在1番多いのはオンラインゲームでの用法だ。日本語の競技場は中国語では体育場という(中国の体育が日本語でいうスポーツにあたる)。いずれにしても、「博弈」、「競技場」ともにギャンブル性の高い語だ。
 習近平氏は現在の太平洋が各国の「博弈」の「競技場」になっていると認識しているわけだが、これは中国の行動が原因で南シナ海や東シナ海の情勢が緊張していることを棚に上げつつ、オバマ政権が進めるリバランスや安倍晋三政権による平和安全法制によって、大国間の賭博的なパワーゲームが激化していると言いたいのだろう。また、皆を受け入れるとは、中国を排除するなという意味で、いわゆる「中国包囲網」を牽制していると考えられる。

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執筆者プロフィール
村上政俊(むらかみまさとし) 1983年7月7日、大阪市生まれ。現在、同志社大学嘱託講師、同大学南シナ海研究センター嘱託研究員、皇學館大学非常勤講師、桜美林大学客員研究員を務める。東京大学法学部政治コース卒業。2008年4月外務省入省。第三国際情報官室、在中国大使館外交官補(北京大学国際関係学院留学)、在英国大使館外交官補(ロンドン大学LSE留学)勤務で、中国情勢分析や日中韓首脳会議に携わる。12年12月~14年11月衆議院議員。中央大学大学院客員教授を経て現職。著書に『最後は孤立して自壊する中国 2017年習近平の中国 』(石平氏との共著、ワック)。
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