軍事のコモンセンス (29)

いまだ十分ではない「人事」と「教育」

執筆者:冨澤暉 2017年8月27日
エリア: 北米 アジア
今年3月、卒業式で帽子を投げる防衛大学校の卒業生。だがこれは、長い長い教育のひと区切りにすぎない (C)時事

 教育基本法(1947年制定)の教育目的は、「人格の完成を目指し、国家及び社会の形成者として心身ともに健康な国民の育成を期す」であり、2006年の改正法でもこの部分は変わらない。ただ、ここでいう「人格」とは何か、「国家」と「社会」はどう違うのか、という点について、明確に教えてくれた学校の先生はこれまでにいなかった。

愛国心教育に悩んだ若手幹部

 自衛隊は無論「国家」ではない。敢えていえば「日本の中の特殊な社会」である。ならば我々は国民教育ならぬ「社会人教育」即ち「特殊社会たる自衛隊の隊員教育」をしなければならない。若手幹部として隊員教育を命ぜられた頃、特技教育については良いとしても、精神教育をやれと言われて「自衛隊員のための精神教育とは何か」と悩んだものである。実は上司たちも悩んでおり、具体的な指導は殆どなかった。ただ「精神教育が大事だ。特に愛国心が大切だ」と言うのみである。

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執筆者プロフィール
冨澤暉(とみざわひかる) 元陸将、東洋学園大学理事・名誉教授、財団法人偕行社理事長、日本防衛学会顧問。1938年生まれ。防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊に入隊。米陸軍機甲学校に留学。第1師団長、陸上幕僚副長、北部方面総監を経て、陸上幕僚長を最後に1995年退官。著書に『逆説の軍事論』(バジリコ)、『シンポジウム イラク戦争』(編著、かや書房)、『矛盾だらけの日本の安全保障』(田原総一朗氏との対談、海竜社)。
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