リーダーインタビュー・シリーズ (5)

【トップランナー】株式会社 ファンケル 代表取締役 社長執行役員 CEO 島田和幸

全てのステークホルダーに対して、正義感を持って「世の中の『不』」を解消する。

執筆者:フォーサイト編集部 2022年8月1日
タグ: マネジメント
 

【経歴】しまだ・かずゆき 1955年広島県生まれ。79年同志社大学法学部を卒業後、ダイエーに入社。創業者・中内功氏の秘書などを務めた。マルエツを経て2003年、ファンケルに入社。取締役、専務執行役員などを経て、17年4月から現職。

 日本の訪日外国人は3000万人を突破し、中国を中心とした外国人観光客の旺盛な消費活動によって、高品質で知られる日本の化粧品、健康食品業界は大きな恩恵を受けた。ところが、コロナ禍で状況が一変して市場は一気にしぼみ、国内市場も少子化やマスク生活の浸透で化粧品の需要は減少した。ここにきてようやく、アフターコロナの視界が広がりつつある。化粧品、健康食品業界の今後について、株式会社ファンケル代表取締役社長執行役員CEOの島田和幸氏に話を聞いた。

Q1.化粧品、健康食品業界を取り巻く環境について教えてください。

 2019年までは、化粧品、健康食品市場は訪日外国人増加の追い風もあり堅調に推移していましたが、新型コロナの影響により一転して厳しい環境となりました。国内についても、化粧品市場はニーズやトレンドの変化が進みました。健康食品市場は健康意識や家ナカ時間の増加によるダイエット需要の高まりによって2020年度は堅調に推移しましたが、足元の市況についてはその需要も一巡し、楽観はしていません。

Q2.その中でファンケルグループの戦略は。

 当社グループもコロナ禍により大きな影響を受けました。越境ECによる中国市場を中心とした海外販売を継続していますが、やはりインバウンドの消失は大きなインパクトでした。コロナ禍ではなかなか攻めきれず、広告投資を抑えたことも、国内市場の苦戦につながったと反省しています。

 ただし、2021年度の下期からは、化粧品、健康食品の主力製品のリニューアルをきっかけに攻めの広告投資を増加しています。今年度も積極的に広告投資を継続しており、足元のお客様数は回復しており、明るい兆しは見え始めています。

 化粧品は主力製品である「マイルドクレンジング オイル」が昨年のリニューアル以後、好調に推移していて、改めて製品力の高さがお客様に評価されています。健康食品は、化粧品に比べると製品ごとの強弱はありますが、強い製品は広告効果がしっかりと出始めています。また、中国市場では現地パートナーとの取り組みを強化し、高成長を継続できています。

 今期の重点テーマは「国内の基盤強化とグローバル展開の加速」です。国内においては、広告効果を見極めながら、テレビ、ウェブ、SNSなどを複合的に活用し、お客様基盤を拡大していきます。グローバル展開では、中国サプリメント事業や、ファンケルグループで衣料品やファッション小物を扱うブランド「アテニア」に加え、化粧品の新ブランドも投入し、成長を加速させていきたいと考えています。

Q3.SDGsについても積極的ですが、どのような取り組みをされていますか。

 当社グループは1980年の創業以来、「不安」「不満」「不便」など、世の中の「不」の解消を理念に掲げています。その想いで研究、商品、サービスだけでなく、社会・共に生きる人々や環境など、これまでも多くの活動に取り組んでまいりました。

 2018年には、その活動をより大きな使命ととらえ、持続可能な社会への貢献を目指して、「ファンケルグループ サステナブル宣言」を制定し、「環境」「健やかな暮らし」「地域社会と従業員」の3つの重点テーマを設定しました。

 具体的な取り組みとしては、当社化粧品ボトルのプラスチック量の削減や、ボトルを回収して花や緑を育てる「植木鉢」などにリサイクルする取り組みを実施しています。回収した容器は障がいのある方の自立支援を目的に設立した特例子会社「ファンケルスマイル」で分別・洗浄・乾燥を行っており、リサイクルだけではなく障がい者の自立支援も目指しているところが当社独自の取り組みです。

 また、2021年4月からは神奈川県内企業や団体と実行委員会を設立し、「ファンケル 神奈川SDGs講座~未来を希望に~」を開催しています。これは、県内の高校を回る講座や、夏の小学生向けイベントなどを行うもので、当社の得意を生かし、子どもたちにSDGsの大切さを伝える活動を行っています。

Q4.最後にメッセージをお願いします。

 私たちの創業理念は「正義感を持って世の中の『不』を解消しよう」、経営理念は「もっと何かできるはず」です。創業理念の「正義感」という言葉は非常に重く、「自分が損をしてでも誰かのために何かをしてあげたい。自分がやらなくてはならない」という強い想いや志を表現していると私はとらえています。そして、「世の中の『不』を解消する」というのは、目の前のお客様だけでなく、未来を含めた全てのステークホルダーに対して、「世の中にどんな不があるか」に向き合って、事業を通じて社会に貢献していくことです。今後も、「美と健康」の事業領域にとどまらず、グローバルで不の解消を目指してまいります。

 また、私は社内に「ファンケルらしく」やろう、「差」ではなく「違い」を大事にしようとメッセージを発信しています。「差」とは、例えば、他社の製品に比べて、品質が少し良いとか、価格が割安だとか、そういったことです。「違い」というのは、ファンケルだから実現できるもの、例えば、無添加化粧品は圧倒的な「違い」があるし、お客様を第一に考えた丁寧な接客や、お客様をもっと深く理解し、つながるために取り組んでいるCRM(顧客関係管理)やDX(デジタル技術による変革)は大きな「違い」です。

 ファンケルは「普通の会社」ではダメで、「特別な会社」でなければなりません。「ファンケルは変わっているね」と言われるくらいの会社を目指してまいります。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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