
低収益企業の多くに賃上げ余力がないのは事実[会談する連合の芳野友子会長(左)と経団連の十倉雅和会長=1月23日](C)時事
「政府に賃上げしろと言われて困り果てています」――。
中部地方の自動車部品関連の下請け会社の会長はそう言って顔をしかめた。円安で輸入原材料が大幅に値上がりしているのに加え、電気代の急上昇で利益確保もままならない。ところが、岸田文雄首相が経済界に対して繰り返し「賃上げ」を要求、大手企業を中心にそれに応じる姿勢が報じられるにつれ、従業員の賃上げ期待は高まっている。
「コスト吸収すらできないのに、賃上げするのは難しい。納入先の大手メーカーが価格引き上げに応じてくれても、コスト上昇分がせいぜいで、賃上げ分の価格転嫁なんてできるはずはない」。これが多くの中小企業の現場の声だ。
それでも岸田首相の勢いは収まらない。1月23日に国会で行われた岸田首相の施政方針演説でも、自らが掲げる「新しい資本主義」の柱として「構造的な賃上げ」を強調した。
「企業が収益を上げて、労働者にその果実をしっかり分配し、消費が伸び、更なる経済成長が生まれる。この好循環の鍵を握るのが、『賃上げ』です」
経済好循環は岸田首相が言う通り、企業が収益を上げることが前提だ。ところが、好循環の鍵を握るのが「賃上げ」だとして、まず分配することがスタートだと言っているのだ。
政策的に進められる「市場機能の否定」

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