画餅の「物価上昇を超える賃上げ」を唱える岸田政権の無責任

執筆者:磯山友幸 2023年1月27日
低収益企業の多くに賃上げ余力がないのは事実[会談する連合の芳野友子会長(左)と経団連の十倉雅和会長=1月23日](C)時事
「賃上げ」をメインテーマに2023年の春闘が始まった。物価上昇に圧迫される消費者には確かに賃上げが必要だが、コスト増に喘ぐ多くの日本企業にその力があるとは言い難い。企業収益に焦点を当てた経済政策なしには、賃金と物価の好循環は遠のくばかりだ。

「政府に賃上げしろと言われて困り果てています」――。

   中部地方の自動車部品関連の下請け会社の会長はそう言って顔をしかめた。円安で輸入原材料が大幅に値上がりしているのに加え、電気代の急上昇で利益確保もままならない。ところが、岸田文雄首相が経済界に対して繰り返し「賃上げ」を要求、大手企業を中心にそれに応じる姿勢が報じられるにつれ、従業員の賃上げ期待は高まっている。

「コスト吸収すらできないのに、賃上げするのは難しい。納入先の大手メーカーが価格引き上げに応じてくれても、コスト上昇分がせいぜいで、賃上げ分の価格転嫁なんてできるはずはない」。これが多くの中小企業の現場の声だ。

 それでも岸田首相の勢いは収まらない。1月23日に国会で行われた岸田首相の施政方針演説でも、自らが掲げる「新しい資本主義」の柱として「構造的な賃上げ」を強調した。

「企業が収益を上げて、労働者にその果実をしっかり分配し、消費が伸び、更なる経済成長が生まれる。この好循環の鍵を握るのが、『賃上げ』です」

 経済好循環は岸田首相が言う通り、企業が収益を上げることが前提だ。ところが、好循環の鍵を握るのが「賃上げ」だとして、まず分配することがスタートだと言っているのだ。

政策的に進められる「市場機能の否定」

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執筆者プロフィール
磯山友幸(いそやまともゆき) 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト活動とともに、千葉商科大学教授も務める。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。
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