
2022年2月24日のロシアによるウクライナ全面侵攻から500日が経過した現在、諸外国及び国際機関によって地方のライフラインや教育、医療等のインフラ復興が既に開始されている。戦時下という困難な状況で早くも実施が進み、戦後本格化する多数の復興プロジェクトは、昨年末に統合されたウクライナ政府の地方・国土・インフラ発展省が調整する[1]。
この莫大なマネーが注入され、非常に広範な分野にわたり、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領をはじめとする高官が「現代欧州における最大の経済プロジェクト」[2]と位置づけるウクライナ復興に向け、政権内部の体制はどのような形となっているのだろうか。
拡大するイェルマーク大統領府長官の権限
ウクライナにおける「行政権力機関制度における最高機関」[3]は首相を長とする閣僚会議(Кабінет міністрів/Cabinet of Ministers)であって、この下に大臣ら率いる各省をはじめとする行政機関が置かれる。通常、ウクライナで「政府(Уряд/Government)」と言えばこの閣僚会議を指す。
これに対し、大統領府(Офіс Президента/Office of the President)は憲法に基づいて「大統領が組織する常設の補助的機構」[4]であるが、現在のアンドリー・イェルマーク長官の就任以降、その権限・権力の拡大がウクライナ国内メディアでは度々取り上げられている。本来、大統領府長官の人事権は大統領府内に限られるはずであるが、例えばオレクシー・レズニコフ国防相、アンドリー・コスチン検事総長、アンドリー・ピシュニー中央銀行総裁といった人物は「イェルマークの部下(люди Єрмака/Yermak’s men)」とされており[5]、このほかにも実際にはイェルマークが、その人脈とゼレンスキー大統領からの篤い信頼[6]の下、多くの省庁・機関の高官人事、ひいては政策に影響を及ぼしていることが指摘されている。
実際のところ、イェルマーク長官は、内外政の非常に広範にわたる職務を担当しており、彼自身もForbes誌のインタビュー[7]で職務の定義が難しいとして、「自分は大統領のマネージャーであるから、大統領のすることは全て、大統領が自分に指示することは全て、自分の責任範囲内である」と認めている。また、イェルマーク長官の下には10名の副長官がおり、それぞれの担当分野において、特に重要な交渉・調整の際には各大臣のほかにこれら副長官が前面に出ることも多い。……

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