業績好調の関電、「原発7基フル稼働」に潜む「二重の落とし穴」

執筆者:町田徹 2023年7月24日
エリア: アジア
株主からは「不正のデパート」との厳しい声が相次いだ[2023年6月28日、大阪市住之江区](C)時事
東電はじめ大手電力7社が値上げに踏み切る中で料金を据え置き、2024年3月期は過去最高益も見込む関西電力。だが、それを可能にしたものに目を向ければ高評価は難しい。カルテル問題で巨額の課徴金を免れたことがまず一つ。そして、安全面にも実現可能性にも不安が拭えない原発稼働を前提にするという、岸田政権の原発政策の矛盾をそのまま映した危うさが指摘されるべきだろう。

 関西電力の業績が絶好調だ。会社が公表した業績予想によると、2024年3月期の純利益は3050億円と過去最高益を更新する見通しである。その水準は、従来の最高益だった2006年3月期(1610億円)の1.89倍に達している。

 だが、この好調を手放しで評価するのは難しい。関電の危うい絶好調ぶりを検証してみよう。

課徴金を逃れて利益増

 4年半ぶりの株高下で開催され、森望社長が冒頭で「ご迷惑とご心配をおかけし、深くお詫び申し上げます」と頭を下げたにもかかわらず、関電が6月28日に開いた株主総会では株主たちが経営責任を問い続けた。

 2019年に発覚した経営幹部らが福井県高浜町の元助役から多額の金品を受領していた問題は、まだ誰の記憶にも新しい。にもかかわらず、昨年から今年にかけても、送配電子会社が持つ競争相手(新電力各社など)の顧客情報を不正に閲覧したり、法人向け電力料金のカルテルが摘発され経済産業省から業務改善命令を受けたりと、不祥事が立て続けに明るみに出ている。

 株主から「不正のデパート」との声が上がるのも無理はない。いずれも会社側が数の力で否決したが、森社長の解任や経営の透明化、脱原発などを求める株主提案が全部で26件も提出された。

 槍玉に上がった不祥事の中でも、上記のカルテルは筆頭格に悪質だ。電力の自由化が進み、格安料金による法人顧客奪い合いが常態化したことに堪りかねた関電が主導して、2018年ごろから中部電力子会社や中国電力、九州電力との間で法人向け電力の料金値下げ競争などを封印したとされる問題である。

 だが、それが結果的に関電の業績に貢献したのだから皮肉なものだ。公正取引委員会は関係した各社に対し、過去に例のない厳しい処分に踏み切った。関電以外の3社は合計で1000億円を超える過去最大の課徴金支払いを命じられた。その内訳は多い順に、中国電力が707億円、中部電力が子会社と合わせて275億円、九州電力が27億円。ところが首謀者の関電は、違反を他に先駆けて自主的に申告するリーニエンシー制度(独禁法の課徴金減免制度)を活用して課徴金処分を免れた。

 関電関係者は「金品受領問題をきっかけに、コンプライアンス(法令順守)を徹底した結果、リスクの顕在化を回避できた」と胸を張るが、電力業界で関電は「仲間を売る裏切り者」と総スカンを食っている。どっちもどっちの破廉恥な反応だとは言え、世間や株主が関電の体質を問題視し、経営責任を追及するのは当然だろう。

今年末には中間貯蔵施設問題で3基が停止?

 また、全国的に原発の再稼働が進まず、東日本ではまだ1基も原発の再稼働が認められない中で、所有する原子力発電所7基のフル稼働を前提に燃料コストを抑えられると算盤を弾いたこともリスクである。関電はこれによって、2024年3月期の経常損益が前期より1590億円改善すると主張している。

 だがこの「原発7基フル稼働」という前提には、二重の意味で落とし穴がある。……

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執筆者プロフィール
町田徹(まちだてつ) 1960年大阪生まれ。経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。神戸商科大学(現・兵庫県立大学)卒業後、日本経済新聞社に入社。米ペンシルべニア大学ウォートンスクールに社費留学。雑誌編集者を経て独立。「日興コーディアル証券『封印されたスキャンダル』」(『月刊現代』2006年2月号)で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」大賞を受賞。著書に『電力と震災 東北「復興」電力物語』『行人坂の魔物 みずほ銀行とハゲタカ・ファンドに取り憑いた「呪縛」』などがある。2014年~2020年、株式会社ゆうちょ銀行社外取締役。2019年~、吉本興業株式会社経営アドバイザリー委員。
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