[台湾・桃園発・ロイター]孫国喜は、国共内戦末期の混乱を今なお鮮明に覚えている。孫が所属していた国民党政府軍は毛沢東が率いる共産党軍の前に壊滅し、彼は1949年、ボートを駆った8日間の危険な海路で台湾に逃れることを余儀なくされた。
「船着き場がなかったから、みんなで水しぶきを跳ね上げながら上陸した」台湾北部の桃園市にある国営の退役軍人介護施設で、110歳になる孫は語った。
「若い人にこんな話をしても、あの時代を経験していない連中は昔ばなしかと耳を貸さない。気にも留めない」孫は、中国との戦争を経験した台湾最後の世代のひとりでもある。
戦いに敗れた中華民国政府は70年以上前に台湾へと逃れ、存続こそしているものの、中華人民共和国との戦争に終止符を打つ講和条約は今でも結ばれておらず、どちらの政府も相手を承認していない。
台湾を自国領土の一部だと主張する中国は、この4年で2度にわたる大規模な軍事演習を実施するなど台湾に対する軍事的圧力を強め、米国を巻き込んだ戦争の勃発が強く懸念されている。
こうした緊張こそが、1月13日に実施される台湾総統選挙と議会選挙で最大の争点となった。
1949年に本土から逃れてきた当時に政権を担っていた野党第一党の国民党は、この選挙を戦争か平和かの二者択一と位置づけ、中国政府も見解を同じくしている。
一方、与党の民進党は、「戦争を望む者はひとりもいない」とし、こうした単純な図式化は不安を煽るデマだと一蹴する。そのうえで、台湾には中国から切り離されたアイデンティティがあるという立場を代表し、台湾の未来を決めることができるのは台湾の人々だけだと主張している。
台湾が最後に中国と戦火を交えたのは、台湾が統治していた金門島をめぐる1958年の「金門砲戦」だ。この戦いを経験した退役軍人たちは、紛争の恐怖を鮮明に覚えているという。……
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