
【前回まで】ミサイルには反撃する――。タウンミーティングで答えた都倉防衛大臣は、記者会見に応じた。その渦中で北朝鮮からミサイルのアラートが入り、都倉は迎撃を命じる。
Episode6 一世一代
10(承前)
「弾着まで1分」
“大臣、本土には到達しませんが、EEZには確実に到達します”
「結構。では、期待しています」
「30秒前」と樋口が告げたのと同時に、イージス艦から迎撃ミサイルの発射が始まった。
「カネに糸目を付けず、従来より早い段階から撃ちまくれ!」というのが、都倉の命令だった。
息を止めて画面を見ていた。
スピーカーにしているスマホからは、統合幕僚監部からの報告の声が響いている。そして――、
“ミサイル迎撃に成功! 繰り返す、迎撃に成功!”
「よし!」
いつの間にか固く握りしめていた拳を、都倉は何度も上下に揺らした。
“大臣、お聞きでしょうか。迎撃に成功しました”
「三国さん、素晴らしい。ありがとうございます。艦長に、この電話を繋げますか」
“一旦切って、「みょうこう」艦長、﨑田[さきた]より電話をさせます”
イージス艦「みょうこう」艦長、﨑田馨[かおる]一等海佐は、海自のエースの一人だ。
女性のイージス艦艦長は、彼女が初ではないが、防衛大学校を首席で卒業し、英米の海軍でも、経験を積んできた。先の迎撃失敗後に着任し、海自の期待を一身に背負うという重責を、見事に果たしたわけだ。
防衛大臣就任後に、「みょうこう」を見学し、都倉は﨑田に会っている。自衛官とは思えない柔和な表情が印象的だった。
スマホが鳴った。樋口が応対して、スピーカーホンにした。
“大臣、「みょうこう」艦長、﨑田であります”
「﨑田さん、大変な時に電話をさせてごめんなさい。一言、直接御礼を言いたかったので。本当に見事でした。心から感謝します」
“ありがとうございます。大臣のご期待に沿えて光栄です。何とか、イージス艦の役目を果たせて、私も安堵しております”
「乗員の皆さんにも、くれぐれもよろしくお伝え下さい。あなた方の勇敢な行動を、国民を代表して御礼を申し上げたいと思います」……

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