オペレーションF[フォース] (63)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第63回

執筆者:真山仁 2024年5月4日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】ミサイルには反撃する――。タウンミーティングで答えた都倉防衛大臣は、記者会見に応じた。その渦中で北朝鮮からミサイルのアラートが入り、都倉は迎撃を命じる。

 

Episode6 一世一代

 

10(承前)

「弾着まで1分」

“大臣、本土には到達しませんが、EEZには確実に到達します”

「結構。では、期待しています」

「30秒前」と樋口が告げたのと同時に、イージス艦から迎撃ミサイルの発射が始まった。

「カネに糸目を付けず、従来より早い段階から撃ちまくれ!」というのが、都倉の命令だった。

 息を止めて画面を見ていた。

 スピーカーにしているスマホからは、統合幕僚監部からの報告の声が響いている。そして――、

“ミサイル迎撃に成功! 繰り返す、迎撃に成功!”

「よし!」

 いつの間にか固く握りしめていた拳を、都倉は何度も上下に揺らした。

“大臣、お聞きでしょうか。迎撃に成功しました”

「三国さん、素晴らしい。ありがとうございます。艦長に、この電話を繋げますか」

“一旦切って、「みょうこう」艦長、﨑田[さきた]より電話をさせます”

 イージス艦「みょうこう」艦長、﨑田馨[かおる]一等海佐は、海自のエースの一人だ。

 女性のイージス艦艦長は、彼女が初ではないが、防衛大学校を首席で卒業し、英米の海軍でも、経験を積んできた。先の迎撃失敗後に着任し、海自の期待を一身に背負うという重責を、見事に果たしたわけだ。

 防衛大臣就任後に、「みょうこう」を見学し、都倉は﨑田に会っている。自衛官とは思えない柔和な表情が印象的だった。

 スマホが鳴った。樋口が応対して、スピーカーホンにした。

“大臣、「みょうこう」艦長、﨑田であります”

「﨑田さん、大変な時に電話をさせてごめんなさい。一言、直接御礼を言いたかったので。本当に見事でした。心から感謝します」

“ありがとうございます。大臣のご期待に沿えて光栄です。何とか、イージス艦の役目を果たせて、私も安堵しております”

「乗員の皆さんにも、くれぐれもよろしくお伝え下さい。あなた方の勇敢な行動を、国民を代表して御礼を申し上げたいと思います」……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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