投資ブームに沸くメキシコが抱える3つのリスク

執筆者:星野妙子 2024年5月3日
エリア: 中南米
オブラドール大統領によるナショナリズムとポピュリズムに基づく政治は、財政赤字を拡大させるなど大きなリスクをはらんでいる[定例記者会見に臨むオブラドール大統領=2024年4月8日](C)AFP=時事
米中対立時代のグローバルなサプライチェーンの再編は、米国の隣国メキシコに大規模な投資を引き寄せている。しかし、ロペス・オブラドール大統領(通称アムロ)が率いる現政権下で、メキシコはナショナリズムとポピュリズムが財政赤字を拡大させ、麻薬犯罪組織対策の失敗が治安の悪化も招いている。6月に控える大統領選ではアムロの後継候補の勝利が確実視されるが、焦点はすでに、同日投票の国会議員選挙で与党側が(現政権に都合の良い)憲法改正に必要な3分の2議席を確保するかどうかに移っている。

 メキシコはいま投資ブームに沸いている。コロナ禍と米中貿易摩擦はグローバルに広がるサプライチェーンの脆弱性を露呈させた。サプライチェーン断絶のリスクを軽減するために、企業は市場近くに生産拠点を移すニアショアリングの動きを強めている。移転先として注目を集めているのが、米国の隣国メキシコである。昨年には電気自動車の米国テスラが、今年に入り中国BYDが新規大型投資を発表している。おりしもメキシコは6月2日に大統領選挙と国会議員選挙を控えている。好調な経済の追い風を受けて、大統領選では現職アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(通称アムロ ※イニシャルA.M.L.Oから)の後継者クラウディア・シェインバウム女史の当選が確実視されている。

カテゴリ: 政治 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
星野妙子(ほしのたえこ) 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所名誉研究員。1952年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科後期博士課程単位習得、満期退学。1981年アジア経済研究所入所。2017年まで同研究所にてラテンアメリカ、特にメキシコを担当し、「担い手」(企業家や企業・産業)に注目して経済発展の問題を調査研究。1984-1987年、2010-2012年メキシコの高等教育研究機関エル・コレヒオ・デ・メヒコ社会学研究センター客員研究員。主な著作に、『ファミリービジネスのトップマネジメント:アジアとラテンアメリカにおける企業経営』(岩波書店、2006年共編著)、『メキシコ自動車産業のサプライチェーンーメキシコ企業の参入は可能かー』(アジア経済研究所、2014年)、『メキシコの21世紀』(アジア経済研究所、2019年編著)などがある。
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