資金面では大苦戦、そのトランプにテコ入れする富豪のマネー

執筆者:岩田太郎 2024年4月17日
エリア: 北米
ムニューシン元財務長官は「第2次トランプ政権」入りにも意欲を示す[国際投資会議「未来投資イニシアチブ(FII)」のパネルに登壇したムニューシン氏=2022年10月26日、サウジアラビア・リヤド](C)AFP=時事
大統領「候補」でありながら、米国政治さらには国際政治に影響をおよぼすトランプ氏が、資金面ではバイデン氏に劣勢なことはよく知られる。巨額の裁判費用が手足を縛ることも確実だが、「差し押さえマシーン」ことムニューシン元財務長官や「サブプライム自動車ローン王」のドン・ハンキー氏、さらにはサウジアラビアのムハンマド皇太子など、トランプ陣営に対して陰に陽にテコ入れをする富豪の動きも見逃せない。

 今年11月5日の大統領選挙の結果を待たずして、米国の政治が再びドナルド・トランプ前大統領を中心に回り始める兆候が見えてきた。

 たとえばトランプ氏は、民主党のジョー・バイデン大統領が推進する国境・移民対策やウクライナ支援法案に対し、自らの意を体した米下院の共和党議員たちによる抵抗を通して強い影響力を行使し始めている。米国にはまるで現職大統領と「影の大統領」が並立しているようでもある。

 2020年大統領選への介入、機密文書持ち出し、不倫口止め料などに関し合計91の罪状に問われた上に、現在公職に就いていない前大統領がワシントンで政治力を拡大できるのは、その裁判や選挙運動、そしてビジネスを資金面で支える「貸し手」「出資者」の存在があることが大きい。

 トランプ氏の軍資金を用立てする政商やパートナーには、2008年以降の米住宅市場危機で破綻した住宅ローン企業救済で「差し押さえマシーン」として恐れられ、2017~2021年には財務長官として当時のトランプ大統領に仕えたスティーブン・ムニューシン前財務長官をはじめ、「ロサンゼルスのサブプライム自動車ローン王」ことドン・ハンキー氏、さらにはトランプ氏とビジネス上のつながりが深いサウジアラビアのムハンマド皇太子兼首相など、強烈な個性を持つ人々が揃っている。

バイデン陣営と民主党の手元資金は2倍以上

 ここ数カ月の米世論調査ではバイデン大統領と拮抗しつつも僅差でリードするケースが多いトランプ氏だが、資金の面から見ると、トランプ氏は裁判の弁護士費用と選挙活動費用を同時に捻出しなければならないハンデを負わされている。

 バイデン陣営の声明によれば、バイデン氏への献金は自身の再選運動および民主党を合わせて3月だけで9000万ドル(139億円)を超える額を集めた。これに対し、トランプ陣営の同月の集金額は6560万ドル(101億円)を超える程度と、見劣りがする。

 さらに、3月末のバイデン陣営および民主党の手元資金は1億9200万ドル(296億円)と潤沢で、トランプ陣営と共和党の9310万ドル(143億円)の2倍余りと圧倒している。

 選挙資金面での不利に加え、トランプ前大統領は2021年1月にホワイトハウスを去って以来、1日あたり平均9万ドル(1390万円)の弁護士費用を支払っており、総計で1億ドル(154億円)以上の裁判費用のやりくりに苦労していると、米ニューヨーク・タイムズ紙が3月27日に報じた

 同記事によると、トランプ氏は巨額の訴訟費用をウェブ上のカンパ募集をはじめ、政治資金を管理する政治活動委員会(PAC)である「Make America Great Again 」「Save America」への献金の一部使用、さらには共和党全国委員会(RNC)からの拠出金でまかなってきた。

 一般的に選挙資金を裁判費用など個人的な支出に流用することは禁じられているものの、一部例外がある。トランプ氏は自身の弁護が選挙に関連している例外だと主張し、選挙献金の一部を弁護士費用の支払いに回している。

 一方でトランプ氏は、自身の支持者が多いキリスト教徒向けに1冊およそ60ドル(9300円)の聖書を販売するなどの「自助努力」に加え、自身が立ち上げたソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」運営会社のトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(TMTG)が3月26日に、特別買収目的会社(SPAC)と合併する形で米証券取引所のナスダックに株式を上場したことで、保有する同社株式の価値が52億ドル(8010億円)相当にまで膨れ上がった。

 しかし、聖書販売で得られる収益はテレビ選挙広告や選挙陣営の人件費、オフィス賃貸料など巨額の出費や弁護士費用をカバーするには到底足らず、TMTG株はその後の暴落、トランプ氏の持ち分の含み益は4月15日現在で21億ドル(約3230億円)相当にまで下落している。さらに、同社株は上場から半年間は売却や譲渡ができないため、担保として差し出すこともできない。

 翻って民事事件では、一族企業が資産価値を偽って不当な利益を得たとしてレティシア・ジェームズ州司法長官(民主党)により2022年に提訴され、ニューヨーク州裁判所は2月に4億5400万ドル(699億円)の支払いをトランプ氏に命じた。

 トランプ氏はニューヨーク市のトランプタワー差し押さえを回避するための控訴手続きで、利息も加わった賠償金4億6400万ドル(715億円)に対する保証金を減額することに成功したが、それでも1億7500万ドル(270億円)が必要となった。

 他にも、名誉毀損訴訟で8330万ドル(128億円)の損害賠償支払いを命じられており、苦しい台所事情の中でどのように資金を捻出するかに注目が集まっている。

「第2次トランプ政権」入りにも意欲

 前述のように、トランプ前大統領はニューヨーク州当局に保証金を納める必要があったが、4月1日に1億7500万ドルの支払いを担保する証明書を州裁判所に提出した。この保証金をトランプ氏に貸し付けたのが、大富豪ドン・ハンキー氏が経営するロサンゼルスが拠点のナイト・スペシャルティー・インシュアランスである。

 トランプ支持者であるハンキー氏は、……

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
岩田太郎(いわたたろう) 在米ジャーナリスト 米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』『ダイヤモンド・チェーンストア』などの紙媒体に発表する一方、『ビジネス+IT』『ドットワールド』や『Japan In-Depth』などウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、IT最先端トレンド・金融・マクロ経済・企業分析などの記事執筆が得意分野。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。noteでも記事を執筆中。https://note.com/otosanusagi
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