米大統領選「強さ」と「弱さ」の政治的コスト

Foresight World Watcher's 4+αTips

執筆者:フォーサイト編集部 2024年7月14日
エリア: 北米
シークレットサービスに囲まれステージから降ろされるドナルド・トランプ共和党大統領候補[2024年7月13日、アメリカ・ペンシルベニア州バトラー](C)AFP=時事

 現地時間13日夕方に発生したトランプ氏狙撃の一報を受け、2年前の安倍晋三首相狙撃を思い起こした読者は多いでしょう。まずは前大統領の命が助かったことが幸いですが、政治と暴力の関わりについて極めて重い問いを投げかける事件となりました。

 近年の米国の世論調査では、「暴力を伴う政治革命」を容認する人々が顕著に増加しています。それは米国社会の分断が深まる中、立場が異なる主張を封じようという意識に加速されているはずですが、暴力容認傾向自体は党派性にかかわりなく、共和党支持者であろうと民主党支持者であろうと増加していることは変わりません。

 今回の事件について「民主主義を脅かす行為を許してはならない」という声が多く上がり、もちろん本誌もこれに同意します。ただ、一方でいわば「よき暴力ならば仕方なし」と考える人々の増加をどう考えるべきなのか。

 米国だけの話ではないのです。安倍首相が暗殺された当時、河野有理氏と呉座勇一氏は、民主主義は本来的に、「暴君は殺されなければならない」という精神も宿していることを政治思想の観点から指摘しました。つまり、暗殺は民主主義を脅かす行為という捉え方だけでは、事件の本質は整理できないのだろうと感じます(なお、河野氏と呉座氏に今回のトランプ氏狙撃について改めてお話を伺ったわけではありません。上記は完全に当編集部の見解であることを念のためお断りいたします)。

 共和党オハイオ州上院議員でトランプ氏の副大統領候補でもあるJ・D・バンス氏は、トランプ氏を「いかなる犠牲を払ってでも阻止しなければならない独裁主義的ファシスト」だとみなす、「バイデン陣営の中心的な前提」こそが事件を引き起こしたとのコメントを発しました。しかし、これは党派対立の文脈に回収して済ませるわけにはいかない問題であることを、私たちは改めて確認するべきです。本誌ではこの点、追って識者の論考を掲載する予定です。

 フォーサイト編集部が週末に熟読したい海外メディア記事4+α本、皆様もよろしければご一緒に。

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 ドナルド・トランプ前大統領が遊説先のペンシルベニア州で演説中に狙撃された。観衆の1人が死亡し、当人は耳に軽傷を負った。今後の捜査で明らかになる容疑者(現場で射殺された)の動機や背景などが特異なものではない場合、暗殺を生き延びた男としてトランプ人気が高まる可能性は高い。

 速報の時点で気になったのは、狙撃された場面の伝えられ方だ。日本のテレビ報道で流れた映像には、狙撃された後、あまり時間を置かずにトランプが立ち上がり、シークレット・サービスに取り囲まれて右耳あたりから血を流しながらも右の拳を突き上げて何かを叫ぶように編集されたものが多く見受けられた。相当に勇敢なトランプ像だ。

 実際には、トランプと警護官たちが狙撃から立ち上がるまでに間には1分以上の時間が経過している。その間、彼らは演台の足下に伏せ続け(傷と安全の確認をしながらだろう)退場が可能になる状況を慎重に待っていた。警護官たちの仕事のあり方として当然のものだ。

 この全体をノーカットで見ると、“勇敢なトランプ”という印象はかなり弱まる。だが、今後、世界で数多く流布されるのは、途中を端折った動画や、星条旗を背に流血したまま雄叫びを挙げるように見える写真の方だろう。先日のテレビ討論会で“完全な敗北”を印象付けてしまったジョー・バイデン陣営が、更なる困難を抱えたことは間違いない。

This Is What the Twenty-fifth Amendment Was Designed For【Jeannie Suk Gersen/New Yorker/7月3日付】

 そのバイデンには大統領選からの撤退要求が止まない。テレビ討論会の後のキャンペーン集会やNATO(北大西洋条約機構)首脳会合での演説、テレビのインタビューなどでは健在をアピールし、選挙戦継続の意向を打ち出したが、リベラル系のメディアや論客に続き、民主党の議員や知事からも撤退を請われるようになっている。

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カテゴリ: 政治
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